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【3.11後の映画と映画界を考える】

震災から5年、日本映画は何を映してきたのか? 風化する記憶を刻むタイムカプセルとしての役割

91EbFqg4G7Lxs園子温監督『希望の国』(左)/君塚良一監督『遺体 明日への十日間』(右)

 東日本大震災の発生から5年の歳月が流れた。映画はその時代の写し鏡とされているが、この5年間で日本映画は何を映し出してきたのか。そして、多くの犠牲者を出し、すべての日本人を震撼させた3.11後、日本映画界は変わったのか。それとも何も変わっていないのか。映画を通して、この5年間について考えてみたい。

 興収面を見ると、震災が起きた2011年は東北や関東で映画館の閉館や休館が相次ぎ、また自粛ムードから年間興収は前年の2,207億円から1,811億円と近年の日本映画界の水準とされる2,000億円の大台を大きく割った。続く12年は1,951億円、13年は1,942億円と低迷が続いたが、『アナと雪の女王』(14)など洋画のメガヒット作が生まれた14年に2,070億円と大台への復帰を果たした。15年は2,171億円を記録。数字だけ見ると映画界の活況は震災前に戻ったように映るが、ここ数年間で耐震性や費用対効果の問題から銀座シネパトスや吉祥寺バウスシアターほか全国各地の伝統ある映画館が次々と取り壊されている。ミニシアターの雄・渋谷シネマライズも姿を消した。数字では見えない形で、映画界は様変わりしている。

 震災後の主な劇映画に目を向けてみると、『ヒミズ』(11)で被災から間もない石巻でのロケを行なった園子温監督が原発問題に正面から斬り込んだ『希望の国』(12)は海外からの資金援助を受けることでようやく製作に漕ぎ着け、ビターズ・エンドが配給した。『踊る大捜査線』シリーズの脚本家として知られる君塚良一氏がみずから監督した『遺体 明日への十日間』(13)は、ファントム・フィルム配給で公開された。メジャー系の作品としては、東宝配給の『風立ちぬ』(13)はテクノロジーの進化が人間社会にもたらす負の側面に言及した宮崎駿監督からのラストメッセージとなった。松竹配給の『天空の蜂』(15)は原発施設をめぐる恐怖をサスペンスエンターテイメントとして堤幸彦監督が描き、10.8億円という興収結果を残している。直接的に震災を描いてはいないが、耐震性の検査を行なう技師を主人公にした橋口亮輔監督の『恋人たち』(15)は“喪失感からの再生”をテーマとしており、これも3.11後の映画として位置づけられるだろう。

 映画界の5年間を駆け足で振り返ったが、日本映画プロフェッショナル大賞を主宰し、メジャー系・インディペンデント系を問わず良質の作品を四半世紀にわたって顕彰してきた映画ジャーナリストの大高宏雄氏に、より踏み込んだ形でコメントしてもらおう。

大高「今、私が強く感じているのは、震災の記憶に対する風化の速度があまりにも速いということです。震災直後には“第二の戦後”というような言葉も発せられ、何か大きな変化の予兆もあったのですが、もはや、そのような言葉自体が忘れ去れました。映画ジャーナリストの私は、震災によってこれから映画表現はどう変わるのか、映画に向けた言葉はどう変化するのかに注目してきました。その過程で、製作側の意欲に比べ、映画の書き手側の意識があまりに鈍いことが気がかりでした。先日、テレビで山田洋次監督の『東京家族』(13)を3年ぶりに見ました。震災によって、作品の中身が一部修正された作品です。公開時にはあまり評価が高いとは思えない作品でしたが、震災から5年が過ぎた今見直すと、胸にズシーンと響いてくるものがあります。橋爪功が居酒屋で、『(日本は)このままじゃいけん』と、切実に言うシーンがありました。何気ないひと言ですが、庶民の本音をさらっと語らせる演出手腕に改めて感心しました。山田監督は、インテリでも何でもない庶民の一人である彼から、その言葉を引き出し、この国への希望を託しているのだと思います。また、妻夫木聡が、結婚することになる蒼井優と、被災地で小指をからませて愛を確認したと話すシーンがあります。素晴らしくて、涙が出ました。ここでも、希望なんですね。甘ったるいシーンですが、共同体をこれから作っていく男女の慎ましい出会いに、震災後のこの国の希望を託している。今では、国家をはじめ、職場、家庭、学校、地域といった場が、共同体として機能しづらくなっています。進む人々の孤立、孤独化は、共同体の今のありようと大きな関係があります。だからこそ、5年後の今、『東京家族』で描かれた希望の光がとても胸に迫るものがあるのです」

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