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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.385

暴力がもたらす痛みをリアルに伝えるのはどっち? 渋谷抗争『クズとブスとゲス』vs『ケンとカズ』

kuzutobusutoges01『クズとブスとゲス』の主演を兼ねた奥田庸介監督。劇中の格闘シーンはすべてガチでやり、ヒリヒリとした生の痛みを感じさせる。

 2016年の邦画界を言い表すキーワードはバイオレンスに他ならない。花沢健吾原作コミックの実写化『アイアムアヒーロー』はゾンビ大量虐殺シーンが強烈なインパクトを残した。人を殴ることに快感を覚える若者たちの無軌道な行動を追った『ディストラクション・ベイビーズ』は単館系ながらロングランヒットとなった。無差別連続殺人鬼がどんな家庭環境で育ったのかを描いた『葛城事件』、違法捜査で出世を遂げる暴力刑事の実録ドラマ『日本で一番悪い奴ら』も今年を代表する作品だろう。渋谷ユーロスペースにて7月30日(土)より公開される『クズとブスとゲス』と『ケンとカズ』の2本も、ドラッグ売買に関わる主人公たちが暴力にまみれる姿を克明に描いた青春犯罪映画となっている。共に30歳と若い監督が撮ったこの2本の作品は、「この映画を撮らずにはいられなかった」という監督の心の中で暗く燃えたぎる情念を感じさせるものとなっている。

『クズとブスとゲス』の奥田庸介監督は1986年生まれ。専門学校時代に撮った自主映画『青春墓場』3部作が評価され、大森南朋や光石研らが出演した『東京プレイボーイクラブ』(11)で一度商業映画デビューを果たしている。だが、トントン拍子で商業デビューを飾ったことに浮かれ、完成した商業デビュー作は不満が残るものになってしまった。清掃業やクラブの用心棒などのバイトで食い凌ぐ一方、気に入らない企画のオファーを断っているうちに、映画の仕事がまったく来なくなってしまった。精神的に不安定な状態となり、「この映画が撮れれば死んでもいい」という想いで作ったのが『クズとブスとゲス』だった。奥田監督の惨状を見かねて、映画業界とは無縁の実の兄がプロデューサーを買って出て、製作費の足りない分はクラウドファンディングで補った。世間に迎合できない奥田監督が身と心を削るようにして撮った作品だ。

『クズとブスとゲス』の奥田監督は主演も兼ねている。見るからに怪しいスキンヘッドの男(奥田庸介)は夜な夜な寂れたバーに現われては、ひとりで呑んでいる女性に近づく。ターゲットに選ばれた女性はグラスの中に睡眠薬を入れられ、スキンヘッドの男の自宅(母親と同居するゴミ屋敷)に連れ込まれ、猥褻画像を撮られる。スキンヘッドの男は、女性を恐喝することで生活費を稼ぐ最低最悪なゲス人間だった。だが、スキンヘッドの男がハメた女はヤクザ(芦川誠)が管理していた商売女だったことから、逆にヤクザに脅され200万円を用意するはめに陥る。手持ちの大麻を売っただけでは足りず、新しい女に触手を伸ばすことに。リーゼントの男(板橋駿谷)はまともな仕事に就けないクズ人間だったが、自分のもとから去っていった恋人(岩田恵里)がデリヘル嬢になっていること知り、その元凶となったスキンヘッドの男の自宅へ殴り込む。かくして、ゲス人間vsクズ人間vsヤクザの三つ巴の争いが勃発する。

 奥田監督は学生時代に格闘技を学んだ経験があり、劇中での格闘シーンやリンチシーンでは共演者たちからのパンチや蹴りをガチで受けている。「噓くさいものにはしたくなかった」からだ。ビール瓶を自分の頭でカチ割るシーンがあるが、これも撮影用の飴細工ではなく、本物のビール瓶を割っている。脚本にはなく、演じているうちにその場で衝動的にやってしまった。自主映画時代から一緒に組んできたスタッフだったので、カメラを止めることなくそのシーンを撮り終えた。当然ながら、額から血が噴き出した奥田監督は病院行きとなり、その日の他のシーンは撮影中止となった。だが、奥田監督の狂った情念こそが、この映画を突き動かしている。

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