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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.385

暴力がもたらす痛みをリアルに伝えるのはどっち? 渋谷抗争『クズとブスとゲス』vs『ケンとカズ』

ken-kazu01覚醒剤売買の実態を描いた『ケンとカズ』。ケン役のカトウシンスケは、『クズとブスとゲス』にもキャラの異なる役で出演している。

『ケンとカズ』の舞台は千葉県市川市。幼なじみのケン(カトウシンスケ)とカズ(毎熊克哉)は小さな自動車修理工場に勤めているが、実はその工場は覚醒剤の売上金を洗浄するための見せかけの職場だった。ケンは恋人(飯島珠奈)の妊娠をきっかけにまともな仕事への転職を考えるが、カズは痴呆症になった母親の面倒を看なくてはならず、まとまったお金を必要としていた。そんな中、敵対する覚醒剤の密売グループを相手に、カズたちは暴力沙汰を招いてしまう。市川の寂れた風景が、ザラついた犯罪映画によく似合っている。

小路「市川の月3万5000円の安アパートに、ずっと暮らしていたんです。そのアパートにはヤクザが来たりして、映画の舞台としてリアリティーがある街だなと思ってました。覚醒剤については警察OBや元売人から話をいろいろ聞くことができたので、迷うことなく撮影に臨むことができましたね。今はインターネットを介して宅配便などで届けられているので、映画では人と人が路上で覚醒剤を受け渡しする少し前の時代設定にしています。その方が映画的だなと思ったんです。この映画では覚醒剤を身近に潜んでいるものとして描いていますが、暴力も遠い存在だとは思えない。すごく身近なところに隠れているものだと感じています」

 なぜ、暴力映画が次々と作られるのか。社会背景や映画界の内情などに理由を見つけることは可能だろう。ただ、少なくとも『クズとブスとゲス』の奥田監督と『ケンとカズ』の小路監督の場合は、閉塞的な日常生活から脱出するための手段として、暴力やドラッグまみれの痛みを伴うリアルな犯罪映画を撮り上げたことは確かだ。両監督はまだ面識がない。ユーロスペースでばったり遭ったら、どうするか聞いてみた。「争っている意識はまるでない。でも記事として盛り上がるなら、『つかみ合いのひとつでもやりましょうか』と書いてもらってかまいませんよ」と2人とも笑った。この夏、渋谷の円山町で2本のインディペンデント映画が静かに熱い火花を散らす。
(文=長野辰次)

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『クズとブスとゲス』
プロデューサー/奥田大介、小林岳、福田彩乃 
監督・脚本・主演/奥田庸介 出演/板橋駿谷、岩田恵里、大西能彰、カトウシンスケ、芦川誠
配給/アムモ98 7月30日(土)より渋谷ユーロスペースほか全国順次公開
(c)2015映画蛮族
http://kuzutobusutoges.com

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『ケンとカズ』
監督・脚本・編集/小路綋史 撮影・照明/山本周平
出演/カトウシンスケ、毎熊克哉、飯島珠奈、藤原季節、髙野春樹、江原大介、杉山拓也 
配給/太秦 PG12 7月30日(土)より渋谷ユーロスペースより全国順次公開
(c)『ケンとカズ』製作委員会
http://www.ken-kazu.com

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