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後藤健二さんを惨殺したISの処刑人「ジハーディ・ジョン」が生まれるまで

 2015年、ジャーナリストの後藤健二さんと湯川遥菜さんがイスラム国(IS)によって殺害された。日本人が初めてISに人質として拘束されたこの事件、IS側は日本政府に対して身代金2億ドルを要求。72時間の猶予を発表したが、その結末は2人の死という最悪のものとなった。

 当時、公開されたビデオには、オレンジ色のジャンプスーツを着て、カメラに向かってひざまずく2人の間に、黒ずくめの男が立っていた。ナイフを握り、覆面をかぶったその男のニックネームは「ジハーディ・ジョン」。ISの処刑人として、数々の西側ジャーナリストや活動家たちの首を斬ってきた、残忍極まりない人物だ。

 しかし、この極悪非道なジハーディ・ジョンの生い立ちを丹念に読み解くと、彼もまた「対テロ戦争」の被害者だったのか……? と、考えが揺らいでしまうだろう。イギリス人ジャーナリスト、ロバート・バーカイクによる『ジハーディ・ジョンの生涯』(文藝春秋)から、この「処刑人」の半生を見てみよう。

 ジハーディ・ジョンことムハメド・エムワジは1988年、クウェートに生まれた。湾岸戦争の戦火に巻き込まれたエムワジ一家は93年、イギリスに亡命。西ロンドンのメイダヴェール地区に移り住んだ。家族はアラビア語で話し、母はヴェールをかぶっていたが、一家は決して敬虔なムスリムというわけではなかった。特に、マンチェスター・ユナイテッドの熱狂的なファンであったエムワジは、幼少期には『シンプソンズ』を愛し、中学から高校にかけては、ジェイ・Zやエミネムなどのヒップホップを愛聴した。ベースボールキャップをかぶり、マリファナを吸い、アルコールに酔うやんちゃな少年だったのだ。

 そんな彼の人生の転機となったのは、イスラム過激派グループとの交際。近所に住むムスリム移民のモハメド・サルクは、過激なイスラム思想を持つとしてMI5(イギリスの諜報機関)から徹底的にマークされた人物であり、エムワジの世界観にも多大な影響を与えたと考えられている。折しも、05年のロンドン同時爆破テロ以降、保安当局はイスラム過激派に対して目を光らせ、イスラムグループの若者たちを徹底的にマークしていた。その追及の手は、ウェストミンスター大学で学ぶエムワジにも及ぶようになる。サルクなどの人物を介してイスラムグループに入り浸るようになった彼は、日に4~5回の祈祷を行い、コーランの暗記も始めるなど、徐々に信仰に目覚めていった。また、周囲の仲間だけでなく、インターネットでイスラム過激派の「ジハードに参加せよ」というプロパガンダに触れ、その思想を先鋭化させていったのだ。だが、その頃はまだ過激な思想を持つ、その他大勢のムスリムにすぎなかった。

 そして皮肉にも、このMI5のマークが、彼をムスリムから「ジハーディスト」へと脱皮させていった。

 MI5は、イスラム過激派グループの若者たちに近づき、MI5のスパイとして働くか、テロリストの認定を受けるかという選択を迫るなど、脅迫のような行為でムスリムたちを追い込んでいく。その申し出を断ったエムワジを待ち受けていたのは、長時間にわたる拷問や、婚約者の家族に対する取り調べの末の婚約破談など、「嫌がらせ」の数々だった……。


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