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ハーレイ、お前はもっとできる子だろうが! 『スーサイド・スクワッド』は“ハーレイ汁”が足りない!?

 彼女はもともと地味な精神科医だったが、ジョーカーによって精神改造された結果、残酷でエロス全開のサイコパスガールになった。キャラ設定だけでヨダレが垂れる。にもかかわらず、本作での狂い咲きは不完全燃焼といわざるをえない。お前はもっとできる子だろうが!
 ただ、これは仕方なくもある。実は本作の主人公はハーレイではなく、デッドショットだからだ。予告編や宣伝では圧倒的にハーレイを前面に押し出しているために勘違いしがちだが、クレジット順でもトップはデッドショット。それゆえ本編では、デッドショットが娘に抱く愛情が、けっこうな尺を割いて描かれる。
 しかし正直、デッドショットと娘との心温まる絆を描く暇があったら、ハーレイがバットで敵をぶちかますショットを、1シーンでも多く観たかった。

 また、本作は世界観や人物設定がそれなりに込み入っているため、説明を兼ねたシーンにそこそこの尺を費やしている。丁寧かつ親切、良心的な配慮ではあるが、その分ハーレイの登場シーンは減ってしまった。
 若干オカルトじみたラスボス誕生の過程、エル・ディアブロの悲しい過去、部隊を率いるリック・フラッグ大佐の葛藤、バットマンとアマンダ・ウォーラーの画策。そこに加えて、「悪人だけど仲間は大切にする」「悪人といえど守るべきものがある」的な、ヒューマンタッチなお行儀の良さも欠かさない。
 でも、ごめん、それ、望んでない。俺たちは、カワいくてエロい女の子が鈍器で人を殴ったり、武器で撃ちまくったりするのを、1秒でも長く観たいだけなのだ。即物的な満足が欲しいだけなのだ。
 ご飯が見えなくなるくらいの肉で覆われたローストビーフ丼を期待したのに、栄養のバランスを考えて6種類の生野菜ものせました、って言われても……。申し訳ないけど、その配慮いらないから。

 もちろん、筆者が低級な人間であることは自覚している。
 自分は、ジャッキー・チェンのアクション映画にストーリーはいらないと思うクチだ。AV本編の女優インタビュー(男性遍歴ほか、どうでもいい自分語り)は基本的に飛ばす主義だし、『機動戦士ガンダムUC』を観る理由は、ファーストを踏襲したデザインのモビルスーツが動くのを見たいだけ。正直“ラプラスの箱”の秘密なんぞ、どうでもいい。
 そういった人間にとって、『スーサイド・スクワッド』における丁寧な世界観の説明や、込み入ったストーリーや、脇役のバックグラウンド描写や、のちのち別のDCコミックス映画につながる設定諸々は、なくてもいい(ネットで調べるから)。四の五の言わずに、ハーレイの体をもっと映せよ!
 牛丼で速攻、胃を満たしたい時に、牛丼以外のものはいらない。にもかかわらず、食前酒のメニューを渡され、アペタイザーを選ばされ、ナイフとフォークをたくさん並べられても困る。四の五の言わずに、白米の上に牛肉ぶっかけて早く持ってこいよ!

 誤解のないように言っておくが、本作はちゃんと作られた映画だ。キャラクター造形も、ストーリーテリングも、アクションもVFXも、どこに出しても恥ずかしくない。ジャッキー映画のストーリーを楽しみ、AV女優のインタビューを飛ばさず、ラプラスの箱が気になる方なら、きっと何の不満もなく楽しめる。
 しかしそうではない、筆者を含む低級な人間にとっては、したたり落ちるジャンクな肉汁、エロねえちゃんが分泌する“ハーレイ汁”がやはり足りなかった。栄養バランスに気を取られ、ジャンクフードをむさぼる背徳的愉悦が手薄になってしまったのが、残念でならない。俺たちは常にハーレイ汁まみれでいたいのに。びしょびしょに濡れていたいのに。
 しかもその汁は、足りないうえに薄かった。健康に配慮なんかしてくれなくて結構。体に悪いギトギトの化学調味料で、俺の血管を詰まらせてくれよ! もっと濃い汁ぶっかけてくれよ! ツユダク万歳だよ!

 などとひとしきり興奮したあと、ふと気づく。ハーレイ汁が「足りない」「薄い」ことによって、自分がハーレイの虜になっていることに!
 ある時期までのiPhoneが、出荷数を巧みにコントロールすることで市場での枯渇感と期待感を煽り、「どうしても欲しい」という消費者心理を喚起したのは有名な話。「狙った男の子へのLINEの返信は、半日置いてじらすべし」と指南する少女向けティーン誌だってある。
 それと同じく、俺たちはハーレイ汁不足の本作を観た後、「もっとハーレイを見たい」という気持ちで、むしろ心がいっぱいになっている。これは……恋!?

 とはいえ、ハーレイを主役にしたスピンオフ映画の製作はだいぶ先っぽい。なので当座の汁補給手段として、10月末のハロウィンをおすすめする。コスプレした和製ハーレイが六本木・渋谷あたりに大挙して出現するだろうから、不審者扱いされない程度にハーレイ汁を補給に行こう。
 無論、本家にはクオリティ面で及ばないだろうが、借りたAVがイマイチだった場合、その辺に落ちている無料のエロ動画で間に合わせる場合もあろう。遠くの有機野菜より近くの駅前中華である。

 ……ほとほと、低級な人間ですみません。
(文・稲田豊史)

最終更新:2016/09/17 07:15
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