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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.395

幸福そうな一家を崩壊に追い込む八坂の正体は? 家族への幻想を砕く浅野忠信主演作『淵に立つ』

fuchi-movie01深田晃士監督のオリジナル作品『淵に立つ』。家族はお互いに支え合うもの、という幻想を粉々に打ち砕くシリアスドラマだ。

 カンヌ映画祭「ある視点」部門 審査員賞を受賞した浅野忠信主演作『淵に立つ』を観て、古いSF映画を思い出した。子どもの頃にテレビ放映され、とても印象に残っていた作品だ。そのSF映画のタイトルは『禁断の惑星』(56)といい、今なおカルト的な人気が高い。『禁断の惑星』には人気キャラクターであるロボットのロビーの他に、“イドの怪物”という姿の見えないモンスターも登場する。太陽系外の惑星アルテアにやってきた宇宙船アンドロメダ号は、このイドの怪物によって次々と犠牲者を出すことになる。スクリーン上で不気味な存在感を放つ浅野忠信を見て、子どもの頃に脳裏に刻まれたイドの怪物の恐怖が甦った。

 断っておくが、深田晃士監督のオリジナル脚本作『淵に立つ』はSF映画ではない。ごくフツーの家族がひとりの闖入者を迎え入れたことで、暗渠のように普段は隠されている家族間の闇を否応なく覗き込んでしまう物語だ。舞台は郊外にある小さな金属加工工場。この工場を営む鈴岡家は、家業を継いだ口数の少ない利雄(古舘寛治)、その妻で敬虔なクリスチャンである章江(筒井真理子)、10歳になる娘の螢(篠川桃音)の3人。そこへ、ひとりの中年男性・八坂(浅野忠信)がふらりと現われる。八坂の過去を知る利雄は、章江たちに相談することなく住み込みで八坂に働いてもらうことを決める。常にアルカイックスマイルを浮かべる八坂には、周囲の人間を不安にさせる得体の知れなさがあった。

 突然現われた居候との共同生活に、最初は章江も螢も戸惑いを覚える。だが、八坂はひどく礼儀正しく、几帳面な性格だった。螢のピアノの練習にも喜んで協力するため、螢が真っ先に八坂に懐く。やがて、八坂の過去が分かってくる。八坂は若い頃につまらない理由で殺人を犯しており、長い刑務所暮らしを経験していた。クリスチャンである章江は同情し、一緒に教会に通うようになった八坂に心を許し始める。休日のピクニック、鈴岡家と八坂は川のほとりで一枚の記念写真に収まる。それは血縁や地縁にかかわらない、新しい理想の家族像として微笑ましく映った。

 物語の後半、八坂はぷっつりと姿を消してしまう。八坂を温かく迎え入れていた鈴岡家に、修復が不可能なほどの大きな痛手を残して。痩身だった章江はすっかりメタボ体型となり、ちょっと物に触れただけで過剰に手を洗う強迫性障害となっていた。逆に利雄は口数が多くなり、ムリに明るく努めている。そして、ピアノの演奏会を控えていた螢は、八坂がいなくなった日からほとんど部屋から出てこなくなってしまった。不在のはずの八坂が、ずっと鈴岡家を苦しめ続けている。利雄は「俺たちはようやく家族になったんだ」とこの状況を懸命に受け入れようとする。一見すると平穏そうだった鈴岡家をズタズタにしてしまった八坂とは、一体何者だったのか?


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