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認可夜間保育園のニーズと実態、そしてジレンマ 映画『夜間もやってる保育園』

 9月30日から公開されているドキュメンタリー映画『夜間もやってる保育園』(大宮浩一監督)。東京都新宿区大久保で24時間保育を行っている認可夜間保育園「エイビイシイ保育園」をはじめとする、東京・北海道・新潟・沖縄に実在する5つの夜間保育園が登場します。

 「夜間保育園」とは、昼間だけでなく夜「も」子供を預かっている保育園のことです。昼間は一般的な保育園同様、外遊びをしたり散歩に行ったり給食やおやつを食べたりして過ごし、夜になると親の迎えの遅い子やお泊りの子たちは夕食を食べ入浴し、パジャマに着替え眠ります。

 夜間保育園と聞くと、中身を知らずについ「夜中まで子供をよそに預けるなんて」「親がマトモな職に就いていないのでは」と批判的なイメージを持ってしまう人は現状、まだ少なくないのではないでしょうか。ただでさえ保育園に否定的で「親が育てるのが一番」教の人もいます。しかし実際には、夜間保育園で保育を受ける子供たちは、規則正しい生活を送ることができているのですね。

 本作に登場する5つの夜間保育園のうち4園は認可保育園です。自分が利用する機会がなかったことから、恥ずかしながらこの映画で初めて認可の夜間保育園が存在していること(認可保育園で夜間保育が可能なこと)を知りました。正式に認可された夜間保育園があることを多くの人に知ってもらうだけでも、本作は十二分に意義のある映画だと思います。

夜間保育をどのように受け止めるかは観客に委ねる

 映画『夜間もやってる保育園』では、夜間保育園で過ごす子供たちの様子を撮影すると同時に、親や保育士たちにも話を聞いていきます。中にはジレンマを抱いている人もいて、それが印象的でした。

 たとえば、厚生労働省職員として多忙な日々を送る母親は、かつて仕事で訪れたイギリスと日本とでは社会の在り方が違うことに触れ、イギリスは「夕方5時以降は家族の時間ということで、スーパーも閉まってしまう。けれど不便さを受け入れて生活」しているのに比べ、日本は便利さを求める傾向が強い、と話します。ある保育士は、この仕事にとてもやりがいを感じているものの「私だったら昼間の仕事をして、夜に預けることはしないと思います」とも打ち明け、しかし夜ひとりで過ごしている子のために「夜間保育があるのは良いと思います」と複雑な気持ちを覗かせます。また、沖縄にある認可夜間保育園の園長は、かつて夜間保育の仕事と自分の子育てとの間で葛藤を抱いたと言います。

 本作を手掛けた大宮浩一監督自身、映画が完成した後も、「夜間保育園がある社会が健全なのか」についての疑問は残っていることを、インタビューで語っています。そしてその上で、夜間保育が必要な親にとっては「今」必要で、待ったなしの問題なのだ、とも。だからなのでしょう、本作は、いかに夜間保育が必要であるかを訴えるのではなく、まず夜間保育の実態を知ってもらう、夜間保育をどのように受け止めるか(色眼鏡で見るのか、それとも必要と認めるのか)は観る人に委ねようというスタンスの作品になっています。

 イギリスにも夜間の仕事がないわけではないと思いますし、日本で夜間に稼動する仕事が完全になくなることもあり得ないでしょう。日本国内だけで完結している仕事に従事する人ばかりではないですし、たとえば医療現場や交代制の職場では夜勤もあるでしょう。24時間営業だったり深夜営業をしているお店が減ることはあっても消えはしません。単純に、全員が同じ速度で同じ働き方をできる時代ではないのだと思います。そして「子育て中だから」時間の制約によって就けない職業、働けない職場があるとして、親になる前はそこでキャリアを積んでいた人も育児によってすべてリセットせざるを得なくなるとしたら、理不尽でもあります。

認可の夜間保育園、ニーズはあるのに不足

 近年ようやく国会でも議論され、メディアも取り上げている都市部の待機児童問題ですが、そうした議論の場においても夜間保育園の存在がクローズアップされることはあまりなかったように思います。しかし、ここにも改善すべき大きな問題があるのです。

 国が夜間保育事業を始めたのは1981年のことです。36年前から認可夜間保育園はあったのです。ただし、数は思ったようには増えていかず、つまり、夜間保育を必要としている親子はたくさんいるのに、認可の夜間保育園はあまりにも不足しているということです。

 本作のパンフレットに、全国夜間保育園連盟会長の天久薫さんが寄稿しています。タイトルは「夜間保育の誕生と課題」。天久さんは、認可夜間保育園が増えない理由について<世間一般にも行政側にも(1)「夜間保育は子供の心身の発達に悪影響を及ぼす」との危惧があり、その結果、(2)「児童福祉の観点から、夜間保育は子どもにとって望ましくない」との誤解が意識の底辺に生じていることにある>との見解を示しています。筑波大学大学院安梅勅江教授らの調査・研究で、<深夜に及ぶ保育であっても、保育の質が担保された認可保育園の保育が提供されれば、普通の保育園と同様に子供に望ましい影響が見られた(中略)、夜間保育の成果が科学的にされた>ものの、しかし夜間保育に対する偏見や誤解を解消するのには努力と時間を要するだろう、とも見ています。

子供を大事にすることと母親本位は矛盾しない

 また社会評論家の芹沢俊介さんは、夜間保育園の在りようについて<徹底して母親本位である>としています。<母親本位であるということは、どんな立派な理屈をつけようと、母親のエゴイズムを優先することだ>と。しかしながら同作によって<母親が自分本位を貫くことによってはじめて、子どもが親にとっての第一義の存在になるというパラドックスである>と感じ、<一人の女性が働く顔から母親の顔へと無理なく切り替えることができるために、夜間保育があるということ>、ゆえに、夜間保育は<あくまで仕事を辞められない母親を持った子どものため>にあるのだ、と。

 私は日中、子供を保育園に預けて働いており、夕方に保育園へお迎えに行ってから寝かしつけるまでの時間(および保育園の休日)、子供と二人きりで過ごし、食事や入浴の世話をしたり遊びをしたりしています。経済的な事情もあり子育てに“専念”することは絶対に出来ませんし、出産によって子育てに専念しなければならないという考え方は極端だと思っています。24時間365日・子供を第一にして自分のことは後回しにするのが、子供にとって良い母親なのではないかという呪いのような思想が、親たちを取り巻いていることは、親の健康を害し、ひいては子供にも悪影響になることすら考えられます。だから、母親が自分本位を貫くことによって(この場合、子供を預けて仕事をすることによって)、子供を大事にできるという理屈に矛盾は感じません。

 そんないち個人の母親としての意見ですが、母親(父親)が子供と質の良い時間を過ごすためには、子供本位ではない時間を持つことが必要ではないでしょうか。そのことを母親(父親)自身も周囲の人間も受け入れることが結局は子供にとってもプラスだと、私自身は考えています。

 『夜間もやってる保育園』は、夜間保育のリアルを知るのと同時に、育児(保育)の望ましい在りようとは? 子供本位と母親(父親)本位との折り合いはどうつけるのか? そんな育児ジレンマについての問題提起をしているのかもしれません。

最終更新:2017/10/05 07:15
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