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【ルポルタージュ】氏賀Y太 リョナ・グロとマンガに人生を全振りする男のスケッチ

 生まれたのは、新潟県の雪深い土地だった。精神史の始まりは、小学校5年生の頃である。その頃はまだ新潟県で暮らしていたが、土地の記憶は薄い。覚えているのは、マンガ家になることを最初に意識したのが、新潟県の本屋で買った『ドラえもん』(小学館)だったということだけだ。

《親からもらった小遣いで買ったのが、てんとう虫コミックス(同)の10巻。なぜだか知らないけれど、アホみたいにハマっちゃって……》

 てんとう虫コミックス版『ドラえもん』の10巻は、後に劇場版アニメへと発展した短編「のび太の恐竜」の収録巻である。その作品に魅了されたのか。あるいは、ほかの短編……「人間切断機」「ハリ千本ノマス」「たとえ胃の中、水の中」……何が少年の琴線に触れたのかはわからない。いずれにしても、これが「マンガ家になるぞ」と思った原点だった。

 それまでも、絵を描くことは好きだった。物心がつくころから落書きが好きで「紙と鉛筆だけ渡しておけば、何時間でも放っておいて大丈夫な子どもだ」と、親や親類は感心していたという。

 小学生になってからも、ずっと絵を描くのは好きだった。でも、それはあくまで子どものお遊び。それがマンガへと変化をしたのが、この頃だった。

 単なる落書き遊びが、夢に変化した頃、一家は埼玉県に引っ越した。それがきっかけになったわけではないが、自分でも本格的にマンガのまね事を始めるようになった。落書きではなく、コマ割りをしてマンガのようなものを描こうとした。最初はドラえもんやウルトラマンなど、ありがちなキャラクターを描いていた。ところが、ある時、クラスメイトを登場させてみると、大いにウケた。絵を描いているだけで満足していた少年は、自分のマンガを見てもらうことの楽しさを知った。

 それが、努力に火をつけた。「コロコロコミック」(同)や「週刊少年ジャンプ」(集英社)に掲載されている作品を穴が開くほど何度も読んだ。「いつかは、自分もこの雑誌に描くようなマンガ家になるんだ」と考えて、まねをした。でも、どんなに練習してもできないことがあった。

《小学校6年生くらいの頃でした。ジャンプ編集部に電話したんです。マンガで使われているツブツブのようなものを、どうやって描けばいいのかわからなくて……》

 小学生の素朴な質問に、電話に出た相手は丁寧に答えてくれた。

「それは、スクリーントーンというのを買ってきて貼るんだ。でも、君にはまだ早いから、それを使わないで描いてみなさい」

 結局、中学生になり、我慢できなくなってスクリーントーンを買った。自分のまだ未熟な絵を、雑誌に掲載されている作品のように仕上げることができるようにしなければならない。そう考えて、日々修業を重ねていた。学歴を得て、よい会社に入ることが人生の成功だと考えている世代の両親は、氏賀の努力には無理解だった。

「何を言っても無駄だ。ならこっそりとやろう」

 今となってはバレていたのだと思うが、画材を隠して見つからないようにしながら、修業を続けた。

 高校は、両親も納得する偏差値の高い進学校に進んだ。部員募集のチラシでマンガが描けると書かれていたので、美術部に入った。本来、油絵などを描く部活動のはずなのだが、顧問の教師はほとんど顔を見せておらず、部員の大半はマンガばかり描いている連中だった。勉強もせずにマンガばかりを描く高校生活が始まった。部活ではマンガを描き、帰り道はゲームセンター。帰ってからは、またゲームをやるかマンガを描く日々が繰り返された。

 ある日、学校から帰ると、弟が「今、放送されているアニメが面白い」と薦めてきた。金曜日の午後5時から放送されていた『魔神英雄伝ワタル』(日本テレビ系)だった。これは、面白いと兄弟揃って毎週見ていると、弟が「コロコロコミック」を持ってきた。作品中に登場する魔神を募集しているので、応募したらどうかと勧められた。

《弟が描け描けというので、お前が描けよと思ったけど……弟は絵が描けないので、自分が描いて送ったんです》

 氏賀が描いた魔神「海王丸」のデザインは、読者投票で1位になった。記念品にプラモデルをもらい、作中にも氏賀がデザインした魔神は登場した。けれど、当の本人は喜びよりも「どうしようか」ドキドキするばかりだった。「コロコロコミック」での募集は、主な読者である子どもの世代を対象にしたもの。高校生の自分が募集するのは気が引けて、名前も年齢もごまかしていたからだ。「バレたらどうしよう」と、しばらくは気が気ではなかった。

 そんな高校時代に始めたことが、もうひとつあった。雑誌の読者ページへの投稿である。当時、新声社から発行されていたゲーム雑誌「ゲーメスト」の読者欄に、幾度もハガキを送っていた。ハガキの裏に4コママンガを描き、月に何枚も編集部に宛ててポストに投函した。いつしか常連の投稿者となっていた。

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