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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.475

“美少女原理主義者”が撮った倒錯的純愛ワールド!! Wヒロインがせめぎあう快楽の極み『聖なるもの』

岩切の巨大化した欲望が街を破壊していく。クライマックスは旧劇場版『新世紀エヴァンゲリオン』を思わせる展開に。

 庵野監督の『エヴァンゲリオン』でいえば、謎めいた南は綾波レイ、勝ち気な性格の小川は惣流・アスカ・ラングレーを思わせる。後半からは小川の感情の揺れをカメラはどんどん追い掛け、小川のクローズアップが増えていく。岩切が、いや岩切監督が2人のヒロインの間で右往左往していることが手に取るように伝わってくる。さらには『エヴァンゲリオン』の葛城ミサトのようなお姉さんキャラの松本(松本まりか)も現われ、岩切の映画をサポートすることを申し出る。美少女原理主義者である岩切監督は、すべての女性を美しく撮ることに特化していく。だが、女たちのあまりの美しさと奔放さに、岩切が頭の中で夢想していた小さな物語はあっけなく崩壊する。残された岩切は、自制心を失った欲望の塊のモンスターとして暴れ回るしかなかった。

 週末を利用して、撮影が進められた『聖なるもの』。すべてのシーンを撮り終えるのに半年を要したそうだ。岩切監督にとっては長いようで短く、そして切ない半年間だった。撮影が終了すれば、サイコーに美しいヒロインたちともお別れしなくてはならない。いつまでも映画の撮影が続けばいいのに。永遠に五月のままならいいのに。できれば、ミューズは自分の世界だけに閉じ込めておきたい。でも、ミューズは男のそんな浅ましい思惑をするりと通り抜け、向こう側へと軽やかに駆け出していく。

 庵野監督が快感原則によって生み出した『エヴァンゲリン』だが、その世界には阪神・淡路大震災&地下鉄サリン事件に喘いだ1990年代の日本社会の混迷ぶりが見事なまでに映し出されていた。そして『シン・ゴジラ』(16)では、東日本大震災&福島原発事故というセカンドインパクトからの復興へと向かう現代の日本社会を描いてみせた。庵野監督ばりの快感原則に従って、最後の自主映画『聖なるもの』を撮り終えた岩切監督。これから彼はどんな世界へと向かうのだろうか。
(文=長野辰次)

『聖なるもの』
監督・脚本・撮影・編集/岩切一空 劇中歌・主題歌/ボンジュール鈴木 
出演/南美櫻、小川紗良、山元駿、縣豪紀、希代彩、半田美樹、佐保明梨、青山ひかる、松本まりか
配給/SPOTTED PRODUCTIONS 4月14日(土)よりポレポレ東中野にてレイトショー公開、全国順次公開
C)2017「聖なるもの」フィルムパートナーズ
http://seinarumono.com

 

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最終更新:2018/04/14 18:00
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