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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.482

血縁とも地縁とも異なる、新しい家族の在り方!? 日本の最下流社会のシビアな現実『万引き家族』

カンヌ映画祭パルムドールを受賞した是枝裕和監督作『万引き家族』。日本映画としては、21年ぶりの快挙となった。

 巣鴨で起きた子ども置き去り事件を題材にした『誰も知らない』(04)、沖縄であった新生児取り替え事件にインスパイアされた『そして父になる』(13)など、是枝裕和監督は日本社会の暗部にスポットライトを当てることで映画を生み出してきた。カンヌ映画祭パルムドール(最高賞)を受賞した『万引き家族』も、実在の事件が元ネタとなっている。2010年以降、次々と発覚した年金不正受給事件から着想を得たものだ。親の死を隠して年金を受け取り続けた詐欺一家に、是枝監督は“正義の鉄槌”を下すマスコミや世論とは異なる角度から近づいていく。

 家族の崩壊が叫ばれて久しい。社会のいちばん小さな単位である家族が壊れていったことで、日本社会全体がすっかり歪んだものになってしまった。実在の事件を通して、家族の在り方を見つめてきた是枝監督は、「家族を結びつけるものは血か、それとも一緒に過ごした時間か」という問題をこれまでの作品の中で問い掛けてきた。今回の『万引き家族』は、そこからさらに大胆に踏み込んでいく。血縁や地縁といった、これまで語られてきた家族の絆に代わる、お金で結びついた打算的な関係として“万引き家族”を登場させている。

“万引き家族”のシンボル的な存在は、是枝作品の常連である樹木希林だ。樹木演じる老婆・初枝の銀行口座に毎月振り込まれる年金を頼りに、治(リリー・フランキー)、その妻・信代(安藤サクラ)、息子の祥太(城桧吏)、信代の妹・亜紀(松岡茉優)たちはゴミ屋敷のような一軒屋で暮らしている。治は日雇い労働、信代はクリーニング店で働いているが、毎日は仕事がなく、収入は限られている。足りない分は、治と祥太がスーパーマーケットから日用品を万引きすることでやり繰りしていた。明るい将来設計も、病気になったときの医療保険もない、ないない尽くしのビンボー一家だったが、みんなで笑って食事を囲む温かさだけは満ちていた。

お仕事中の治(リリー・フランキー)と祥太(城桧吏)。犯罪を重ねることで、親子の絆を深めていくことに。

 世間の目を忍んで、ひっそりと暮らす万引き家族に新しい仲間が増える。隣町でひと仕事を終えた治と祥太はその帰り道、団地で部屋から締め出されて凍えていた小さな女の子・ゆり(佐々木みゆ)に気づき、連れ帰ってきたのだ。初枝がゆりのシャツをめくると、体中が火傷の痕とアザだらけだった。親から虐待されているゆりを帰すことができず、治と信代の新しい子どもとして迎え入れることになった。万引き家族の一員になるため、ゆりは懸命に万引きの連係プレイに加わるようになる。

 学校に通うことのない祥太とゆりだったが、『誰も知らない』の柳楽優弥たち兄妹と同じように伸び伸びと育っていく。家族想いの優しい子どもたちに、家長である治は自分の知っている万引きのノウハウをいろいろと伝授していく。学歴も資格も何も持っていない治には、万引きのテクニック以外に教えてあげるものが何もないからだ。世間の常識から大きく逸脱した父子の絆が培われていく。歪んだ社会では、歪んだ親子の絆がとても真っすぐなものに映る。

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