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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.482

血縁とも地縁とも異なる、新しい家族の在り方!? 日本の最下流社会のシビアな現実『万引き家族』

 日本の低所得者層の生活をリアルに描いた『万引き家族』は、ペ・ドゥナ主演作『空気人形』(09)以来となる官能シーンに是枝監督が挑んでいることでも注目される。いつも家族と一緒なため、セックスレス状態だった治と信代だったが、夏の昼下がりに夫婦はそうめんを食べながら、珍しく2人っきりなことに気づく。汗ばんだ下着姿の安藤サクラのむっちりとしたボディが濃厚なフェロモンを発している。パンツ一丁のリリー・フランキーは、この強力なフェロモンに抗うことができない。2人が体を重ね合った後の、食卓に垂れ下がった白いそうめんが実にエロティックである。

是枝作品に初参加となった松岡茉優。祖母役の樹木希林との共演が楽しくてたまらないといった表情を見せる。

 松岡茉優も体を張っている。松岡演じる亜紀の仕事先はJK見学店だ。亜紀はここでセーラー服に着替え、若さと性を売り物にしている。街のどこにも行き場所のない人たちが、マジックミラー越しの亜紀を求めて訪ねてくる。そんな行き場所のない人にとって、亜紀は10分刻みの天使となるのだった。お金を介することで、亜紀は孤独な心と繋がっていく。安藤サクラは人妻の妖艶さ、松岡茉優は新鮮な色香をほとばしらせるが、エロスはタナトスと背中合わせの関係でもある。一家にとって精神的&経済的な支柱だった初枝が眠るようにこの世を去り、家庭内のバランスが危うくなる。それと同時に、この一家の隠されていた秘密が次々と明るみになっていく。

 日本映画として、今村昌平監督の『うなぎ』(97)以来となるカンヌ映画祭最高賞を受賞したおめでたい『万引き家族』だが、そこで描かれているのは『誰も知らない』の頃よりもさらに厳しさを増した日本社会の現実である。それでも、この家族はとても幸せだ。誰かと手をつないだとき、抱きしめられたときの肌の温かさを子どもたちは知っているからだ。夏の終わりに、さほど美しくもない海へと家族そろって出掛けたことを、祥太とゆりは大人になっても忘れないだろう。世間的には犯罪者集団であっても、子どもたちにとっては得難い家族だった。世間の常識からこぼれ落ちたこの一家が、輝いて見える。世間の常識や良識を振りかざしても、解決できない問題がある。
(文=長野辰次)

『万引き家族』
監督・脚本・編集/是枝裕和 撮影/近藤龍人 音楽/細野晴臣
出演/リリー・フランキー、安藤サクラ、松岡茉優、池松壮亮、城桧吏、佐々木みゆ、緒形直人、森口瑤子、山田裕貴、片山萌美、柄本明、高良健吾、池脇千鶴、樹木希林
配給/ギャガ 6月2日(土)、3日(日)先行上映、8日(金)より全国公開
(c)2018フジテレビジョン ギャガ AOI Pro.
http://gaga.ne.jp/manbiki-kazoku

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最終更新:2018/06/09 04:45
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