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昼間たかしの100人にしかわからない本千冊 39冊目

旅は無謀であるほど意義がある──上温湯隆『サハラに死す』

『サハラに死す―上温湯隆の一生』(時事通信社)

 まだ10代の頃に、この本を手にとって「いつかは、こんな旅を……」と思いつつ、果たせない人は多いんじゃないかな。筆者も、その一人である。

 21世紀の今、テレビ番組では世界の隅々をカメラが訪ねる。世界の辺境に住む人々、時には日本人の姿も映される。インターネットを用いれば、世界のどこかで起きている事件をリアルタイムで見ることもできる。はたまた、Googleのおかげで、聞いたこともないような、(自分視点で)世界の果ての街や村の様子も、モニターを通じてうかがい知ることができる。

 でも、何か物足りない。

 そこで何が起こっているのか。リアルタイムに情報を得ることはできても、目に見えるもの以外を感じることはできないからだ。

 この本は、ただまだ見たことのない世界を探そうとした男の人生の記録である。

 著者の上温湯隆が挑戦したのは「世界初の単独行によるサハラ砂漠横断」。世界の放浪を志したこの青年は高校を中退し、貨物船の見習い調理師として働き、資金を貯め、国境を越えた放浪の旅へと旅立った。

 そんな男が夢見た、誰もやったことのない、たった一人でのサハラ砂漠の横断。それは、21世紀の視点からしてみれば、無謀な旅にほかならない。

 確かに旅は無謀だったかもしれない。一度目は途中、ラクダが衰弱死したため挑戦は中断。再び資金を稼いでの挑戦の途中で、上温湯は死んだ。

 彼の最期を見た者はいないが、おそらくはなんらかの理由でラクダに逃げられて、飢えと渇きの中で斃れたのだと考えられている。

 21世紀の今、情熱に溢れた旅の途中で死んだ青年の話をしたところで、共感されることは少ない。正直、けっこうな数の人は「家族に迷惑を」だとか「無責任な旅」だとか批判的な言葉を述べる。

 でも、私はそうだとは思わない。

 この本の前半に収録された上温湯の旅の途上の日記。そこに記されているのは苦闘の連続である。旅は危険だし、苦しい。途中で出会う現地の人々に尊敬されることもなければ、歓迎されることも少ない。

「なぜ、旅をするのか」と素朴な疑問をぶつけられると、答えることもできない。

 そりゃそうだ。そんなことを考えるような余裕があれば、こんな無謀な旅を計画するわけがない。

 その理屈や損得を度外視した情熱こそが、旅することの魅力なのだと思う。

 果たして旅をすることによって、得られるものなんてあるだろうか。そんなものは、ない。人間的成長もあるのかといえば、答えに窮する。

 旅すること。ネットや書物でしか見たことのなかった世界を感じること。それは究極の自己満足。でも、自分が満足するなら、それでいいじゃないか。
(文=昼間たかし)

最終更新:2019/11/07 18:38

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