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昼間たかしの100人にしかわからない本千冊 36冊目

なぜ買ったかも忘れたが……『あなたを選んでくれるもの』が教えてくれたこと

『あなたを選んでくれるもの』(新潮社)

 前回、最近の他人に勧められる「読むべき」文章への警戒心を記してみた。もちろん、日々目にする文章。ネットなり雑誌・書籍の大半はそうじゃない。ただ、なぜか世間で評判になっていたり、人が「読んだ」と勧めてくる文章は、凡庸な分析や解説、批評にならない批評が占めているような気がする。

 現代社会がどうなっているのか。様々な現象は、どういうものなのか。正直、そんなものはどうでもいい。

 そんなことを考えていたら、Amazonから本が届いた。ミランダ・ジュライ『あなたを選んでくれるもの』(新潮社)。

 正直、なんでこの本を買ったのか、記憶は定かではない。深夜まで、試行錯誤しながら文章を書いて壁を殴る。ネットのあちこちを漂流してから、また壁を殴って文章を書く。

 ……もっとも、壁を殴って痛んでは大変なので、コツンと拳をあてた後は、ハンドスピナーを回すのが習慣……そんな「誰のためか」と問われれば「自分のため」としか、答えることのできない朦朧とした意識の中で、なにげなくワンクリック注文してしまったのか。

 定価2300円(税別)

 もしも、凡庸な物語ならば悔しさが滲む絶妙な値段。第一、買ったはいいけど、作者のミランダ・ジュライには「誰?」の一言。カバー裏の著者紹介や、ネットサーフィンの成果として得られるのは、アメリカ人女性であること。アーティストだったり、映画監督だったり多才であること。もっとも、監督した映画は、タイトルだけで子難しさを感じて興味も湧かぬ。

 そんな女性の記した「インタヴュー集」というには、本の紹介は正しくない。簡単にいえば、こう。

 映画の脚本も進まずイラついてたので、毎週投げ込まれるフリーペーパーの「売ります欄」の主にバイト料を払って話を聞いていたら、いつしか映画も完成していた。

 映画の脚本執筆を軸にしたミランダの内省的な紀行の間に挿入されるのがインタヴュー。21世紀の今、絶滅寸前の紙のフリーペーパー。そんな前時代的なものを利用して、不要品を売って、なにがしかの金銭を得ようとしている人たちは、どこか世間の流れとはズレている。Lサイズの黒革のジャケットを10ドルで売ろうとしている男性は、訪ねてみたら性転換の最中。67色のカラーペンセットを売ろうとする男は、保護観察中の人物が装着させられるGPSを足首に着用。おまけに、えたいの知れない金儲け話を自慢げに語る。誰のものかもわからない写真アルバムを1冊10ドルで売る者もいれば、古ぼけたドライヤーを5ドルで売る者も。

 ミランダは、興味の赴くままに、その人々の人生や現在。そして、未来を尋ねていく。

 と、そんな内容の本を「100人にしかわからない本千冊」のひとつとして加えた理由。それは、時に驚き、呆れ、さっさと席を立ちたい衝動になることも隠さない書き手の姿勢。そして、そこで見て聞いたことをもとに振り返るのが、自分自身であること。

 このテーマをもしも、私が日々名前を聞かされる、キラキラした書き手が手がけたら……。

 一転して、内容は上すべりな同情。それも「貧困」だとかをキーワードに、社会制度を批判する体を装いつつ「よかった、まだ自分よりも下がいたんだ」と、読者が胸をなで下ろすものが出来上がるのだろうと思った。

 せめて、自分だけは恥じなくいたい。そう思ったら、また筆が止まった。
(文=昼間たかし)

最終更新:2019/11/07 18:38
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