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原作のメッセージ性より生理が優先された結末!! 現代篇は不要だった『この世界の片隅に』最終話

■シリアスな物語の中で花開いた若手俳優たち

 若手俳優陣の好演が目立った実写版『このせか』でした。オーディションで選ばれたすず役の松本穂香は、同じ事務所の有村架純の妹分というイメージが強かったのですが、本作がオンエアされてからはその印象は払拭され、新世代の演技派女優として注目を集めることになりました。おとなしい性格だったすずが空襲で右手を失ってから見せた鬼気迫る表情は、女優としてのポテンシャルを感じさせました。YouTubeで配信中の連続ドラマ『♯アスアブ鈴木』では振り切ったコメディエンヌぶりを披露しており、こちらもどんなエンディングが待っているのか楽しみです。

 すずの夫・周作を演じた松坂桃李は、主演映画『娼年』が今春ミニシアター系で公開され、R18作品ながら大ヒットを記録しました。『このせか』では安定した受けの芝居を見せ、松本穂香も演じやすかったことでしょう。幸子役の伊藤沙莉、水原役の村上虹郎も旺盛な生命力を感じさせ、今回の実写化に欠かせない存在となりました。最終話で涙を誘った妹すみ役の久保田紗友、志野(土村芳)が帰りを待ち続けた夫・春夫を演じた毎熊克哉も、これから活躍の場を大いに広げるに違いありません。

 最終話の視聴率は10.0%(ビデオリサーチ調べ、関東地区/以下同)でした。前週の番組最高記録10.9%を更新することはできませんでしたが、2週連続で2ケタをキープしました。放送開始前は実績のまだない若手女優の主役抜擢、超シリアスな内容、劇場アニメ版が高い評価を得ていたことから大爆死することも予測されましたが、第8話から視聴率を10%台に回復、また広島地区では第8話22.9%、最終話21.8%という高い数字を残し、体裁を整えた形となりました。でも、今回の連ドラ化は問題点も多かったように思います。

 

■サプライズシーンは果たして必要だったのか?

 まずは第1話から賛否を呼んだ現代篇です。最終話を見届けるまでは判断を保留してきましたが、結局のところ現代篇はあまり意味がありませんでした。完成度の高かった劇場アニメ版との差別化を図るための、企画書上での役割で終わってしまったように思います。特に佳代が今も生きているすずさんを見つけるシーンは蛇足だったと個人的には感じています。

 すずと佳代との時代を越えての遭遇は、しんどい内容のドラマを3カ月間にわたって見守ってきた視聴者にとっては「すずさんは今も生きていたんだ。よかったぁ」と生理的な快感をもたらすものではあったと思います。でも「よかったぁ」で済ませていい作品なのかという想いも湧いてくるのです。現実世界ですずと佳代を引き合わせなくても、大切な人たちとの別れを余儀なくされたすずと介護の仕事に携わることで多くの人を看取っただろう佳代を、ドラマ展開の中で精神的にシンクロさせることもできたはずです。ですが、現代篇にはドラマ性がまるでありませんでした。完全に現代が過去に負けてしまっています。佳代が本当の自分の居場所を手に入れるのは、まだまだ先の物語となりそうです。

 ドラマとして機能しない現代篇を盛り込む余裕があるのなら、『このせか』の本来のテーマである、すずの居場所さがしをもっと掘り下げてほしかった。遊女の白木リン(二階堂ふみ)は「この世界にそうそう居場所はなくなりゃせんよ」と語っていましたが、すずはその言葉がすぐには腑に落ちずにいました。学校教育を受けていないリンは居場所という概念を持っておらず、自分が生きている場所がそのまま自分の居場所なんだというシンプルな考えの持ち主だったようです。赤の他人の家の天井裏でも、遊郭街でも、生きていくことができれば、そこがリンの居場所であり、彼女にとっての世界の真ん中だったのだと思います。でも、戦争はそんな彼女の最期の居場所すらも容赦なく奪い去りました。

 もうひとつ残念だったのは、第8話の玉音放送の後に太極旗が掲げられる原作の描写がなかったことに加え、呉市は軍需産業で経済的に潤った街だったことにも言及しなかった点です。どちらもTBS側が腹を括っていれば盛り込むことはできたと思います。TVドラマ版『このせか』のすずをはじめとする北條家の人々は、軍や政府の偉い人たちが一方的に始めた戦争に巻き込まれた無辜なる被害者となってしまっています。恐ろしい歴史が再び繰り返されないことを願います。

 とはいえ、今回のTVドラマ化によって『このせか』という作品を知り、原作コミックや劇場アニメ版に興味を持った人もいるでしょう。今年12月にはすずとリンとの交流シーンや枕崎台風シーンを追加した新劇場版アニメ『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』が公開されます。この機会に、なぜ日本はあの時代に他国と戦争をしなくてはいけなかったのか、戦争を回避する道はなかったのかを考える人がほんの少しでも現われれば、『このせか』のクロスメディア化は成功したと言えるのかもしれません。
(文=長野辰次)

最終更新:2018/09/18 20:00
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