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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.518

なぜアイドルはナチ衣装を着てはいけないのか? ヒトラー政権末期に現われた『ちいさな独裁者』

 高度にシステム化された未来社会の恐怖を描いたハリウッドSF大作『ダイバージェントNEO』(15)などで知られるロベルト・シュヴェンケ監督は、母国ドイツに戻り、本作を撮り上げた。宣伝のために2018年に来日したロベルト監督は、ヘロルトをストローマン(わら人形)に例え、興味深いコメントを残している。

「この映画は第二次世界大戦末期に起きた実話ですが、映画の中で描かれている権力構造はどの時代にも通じるものです。人間は権力を集め、利益のために人を操る方法を知っています。例えば、中絶に反対すれば、中絶反対派の支持を得ることができる。銃の所有に賛成すれば、銃規制反対派の票が集まる。自分がその考えを本当に支持しているのかどうかは関係ありません。それが政治家というものです。そして彼らが実際に権力を手に入れると、物事は急激に変化するのです。国民は自分たちに都合のいい“ストローマン”を代表に選んだつもりですが、実はストローマンが“支配者”なんです。彼らは一度権力の座に就くと、その地位を維持しようと努めます。また現代では、権力を得るために全体主義国家を築く必要性すらありません。トーク番組の司会者ショーン・ハニティーのように影響力のある発言者がいれば、宣伝省も必要ないのです」

収容所は軍の規律を破ったドイツ兵たちで溢れ返っていた。即決裁判の名のもとに、囚人たちは瞬く間に処刑されてしまう。

 いつでも取り替えられるストローマン(わら人形)を代表に選んだつもりが、非力のはずのストローマンは権力の座に就くと自発的に動き出し、無慈悲な独裁者へと変身していく。売れない絵描きだったアドルフ・ヒトラーも、ドイツ労働者党(後のナチ党)に入党するまでは一介のストローマンだった。やがて過激な演説ぶりが評価され、ナチスドイツ総統にまで登り詰めた。中身が空っぽなわら人形を独裁者へと変えてしまう、権力システムの恐ろしさをロベルト監督は本作の中で描いてみせている。

 人気絶頂期にあるアイドルグループ「欅坂46」だが、2016年のハロウィンステージに使用した衣装がナチスドイツを想起させるとユダヤ系人権団体から抗議を受けたことは記憶に新しい。ヒトラー政権下で宣伝大臣を務めたヨーゼフ・ゲッベルスはナチスドイツの制服にこだわり、ドイツの人気ブランド「ヒューゴ・ボス」の創設者に軍服を大量生産させた。ナチスのファッションにはある種の格調の高さとフェティシュさが漂い、今も多くの人を惹き付ける。ナチ風ファッションをまとった本人も、その姿を前にした大衆も陶酔させてしまう危険な力がある。アイドルはなぜナチ風衣装を身にまとってはいけないのか。その疑問に対する答えが、映画『ちいさな独裁者』にはある。
(文=長野辰次)

『ちいさな独裁者』
監督・脚本/ロベルト・シュヴェンケ
出演/マックス・フーバッヒャー、ミラン・ペシェル、フレデリック・ラウ、ベルント・ヘルシャー、ワルデマー・コブス、アレクサンダー・フェーリング、ブリッタ・ハンメルシュタイン
配給/シンカ、アルバトロス・フィルム、STAR CHANNEL MOVIES 2月8日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国ロードショー
(c)2017-FILMGALERIE 451,Alfama Films,Opus Film
http://dokusaisha-movie.jp

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最終更新:2019/02/09 20:00
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