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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.519

大震災直後の朝鮮人虐殺事件を描いた実録映画!! 法廷で愛を叫んだ恋人たち『金子文子と朴烈』

金子文子役で韓国映画界の新人女優賞を総なめしたチェ・ヒソ。日本語の裁判資料を読み込むなど、脚本段階から映画製作を支えた。

 ヒロインとなる金子文子を演じたのは、日本で獄中死を遂げた実在の詩人を主人公にしたイ・ジュンイク監督の前作『空と風と星の詩人 尹藤柱の生涯』(15)にも出演した韓国の若手女優チェ・ヒソ。小学生時代を大阪で過ごし、そのときに阪神・淡路大震災を体験している。日本語に堪能なことから、裁判所での長台詞もある難役・金子文子役に抜擢された。「大阪で食べたタコ焼きの美味しさと少女漫画の面白さが忘れられない。大阪時代は私がいちばん幸せだった大切な思い出」と語る親日派のチェ・ヒソに役づくりの難しさについて語ってもらった。

チェ・ヒソ「金子文子の手記『何が私をこうさせたか』は日本語版とハングル版を何度も読み返しました。日本語で書かれている裁判記録もすべて読みました。『何が私をこうさせたか』は文子が朴と出会ったところで終わっています。多分、出版された当時(1931年)は政治思想については触れることができなかったんだと思います。裁判記録は読み易いものではありませんでしたが、文子の思想についてかなり詳しく記述されていたので役立ちました。裁判の最後に文子が語る陳述は裁判記録に実際に残っていたもので、私からイ・ジュンイク監督に『ぜひ使って』とお願いしたものです。文子は手記にも書かれているように大変につらい少女時代を過ごしていますが、その体験から権力者への反抗心や生命力を燃やした女性だったと思います。ジュンイク監督と話し合い、フェデリコ・フェリーニ監督の『道』(54)や『ブルックリン最終出口』(89)のような明るくタフなヒロインをイメージして演じました」

 皇太子(後の昭和天皇)暗殺を計画したテロリストとして「大逆罪」に問われる朴と文子だったが、暗殺計画は具体性のない妄想レベルのものだった。「大逆罪」が確定すれば死刑宣告されるにもかかわらず、朴と文子は世界各国が注目する裁判に韓服とチマチョゴリを着て臨み、権力者が労働者を搾取する現実社会の理不尽さを訴える。「すべての人間は平等である」と主張する2人は、思想犯というよりはヒューマニズムを貫くイノセントな恋人たちだった。

チェ・ヒソ「朝鮮人虐殺事件は祖父や祖母の世代には知られていた大事件でしたが、韓国には悲しい事件が多すぎて、今の若い世代にはあまり知られていません。『歴史は成功者の名前しか残らない。だが、負けることを覚悟して権力者と闘った人たちの闘いの過程を知ることも重要だ』という想いからイ・ジュンイク監督は映画にしました。日本と韓国は距離的にも文化的にもとても近い国。その分、どうしても政治的にはぶつかり合うことが多いと思います。国籍や性別に左右されることなく、真っすぐに生きた金子文子という素敵な女性がいたことを、日本のみなさんにも知っていただけるとうれしいです」

 関東大震災と朝鮮人虐殺、そして思想家たちの弾圧という暗い日本の歴史の中で、一途な愛を貫いたひとりの女性がいた。厳粛な法廷を愛の告白の場に変えてしまった彼女こそが、至高のアナーキストだった。
(文=長野辰次)

『金子文子と朴烈』
監督/イ・ジュンイク 脚本/ファン・ソング
出演/イ・ジェフン、チェ・ヒソ、キム・インウ、キム・ジュンハン、山野内扶、金守珍、趙博、柴田善行、小澤俊夫、佐藤正行、金淳次、松田洋治、ハン・ゴンテ、ユン・スル
配給/太秦 PG12 2月16日(土)より渋谷シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
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http://www.fumiko-yeol.com

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最終更新:2019/02/16 18:00
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