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揺らぐニセモノとホンモノの境界線【1】

GUCCIが偽ブランド品をサンプリング! “ブート・クチュール”の複雑化する最尖端

グッチのサイトにある「グッチ〔ダッパー・ダン〕コレクション」広告キャンペーンのページより。写真はアリ・マルコポロス。

 似たような動きはほかのブランドでもないことはない。ニューヨークで1994年に創業した、ストリートブランドのシュプリームは、2000年にルイ・ヴィトンのモノグラムを全面に配したスケートボードデッキを販売したが、ルイ・ヴィトン側からクレームを受け、発売から約2週間で販売中止となってしまった。ところが17年、シュプリームはルイ・ヴィトンと正式にタッグを組み、ウェアやバッグ、財布、iPhoneケースなど限定コラボ商品を販売した。

 とはいえ、今や世界的な人気を誇るシュプリームと、30年前に密造屋の烙印を押されて表舞台から姿を消したダッパー・ダンとでは、衝撃度が大きく違う。

「当時のダッパーはニューヨークのハーレム限定のスターデザイナーであり、欧米のファッション業界ではほとんど知られていなかったはずです。でも、2010年代に入ってから、70~80年代のヒップホップをディグる動きが顕著になって、当時のヒップホップのファッションの重要人物として、注目を集めるようになりました。Netflixがドラマ『ゲットダウン』やドキュメンタリー『ヒップホップ・エボリューション』といった70年代の黎明期から90年代の黄金期までヒップホップの変遷をたどる番組を配信したのも、大きく影響していると思います」(A氏)

 加えて、それ以前にハイブランドがストリートブランドにすり寄ってきたことも背景にある。例えば2008年、リカルド・ティッシ(現バーバリーのチーフ・クリエイティブ・オフィサー)がジバンシィのメンズ・クリエイティブ・ディレクターに就任し、数シーズンにわたってストリートスタイルに大きな影響を受けたコレクションを発表。また同時期、世界的ラッパーのカニエ・ウェストは、従来のストリートスタイルにハイブランドをミックスしたスタイルを好むように。そして09年、ルイ・ヴィトンがそんなカニエのデザインによるスニーカーを発売。以降、さまざまなハイブランドが、ストリート・カルチャーにインスパイアされたコレクションを発表したり、ストリートブランドとのコラボを盛んに行ったりするようになった。顧客とのタッチポイントの多様化、購買ニーズの多様化が進む時代、各ブランドはこうして顧客の若返りを目指したのである。その試みが功を奏し、2010年代半ばになると、ハイブランドとストリート色の強いアイテムを組み合わせる“ラグジュアリーストリート(ラグスト)”が大流行した。

 こうした流れの一要素として、ブート・クチュールもとらえられるだろう。実例としては、16年にデビューし、新世代のポップ・アイコンとして注目されるLA在住の17歳の歌姫ビリー・アイリッシュは、しばしばアーティストのTsuwoopによるルイ・ヴィトンのモノグラムを使ったブート・クチュールを着て公の場に登場(85ページ写真)。なおTsuwoopは、ルイ・ヴィトンだけでなくグッチやシャネル、フェンディのロゴやモノグラムを勝手に派手な色使いにアレンジして仕立てたストリートウェアやスニーカーを次々と発表。それらの画像はインスタグラムの自身のアカウントでアップしているが、それらを公式に販売しているかどうかは明らかになっていない。

「アメリカではそうしたブートのファッションが非常に盛り上がっています。お金で買えないもの、自分だけの一点ものを求める傾向が世界的に強まっていることも、一要因としてあるでしょう」(同)

■シュプリームのロゴをバグらせて刺繍する

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