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中島岳志が振り返る参院選「本当の勝者」<後編>

N国党のやり方で、あなたも議員になれる!? ポピュリズムの暴走を誘うグロテスクな戦略

文=萩原雄太(かもめマシーン)

 史上2番目の低投票率となる48.8%を記録した参院選を振り返る本企画。前編では、中島氏が「日本政治史上の事件」と語る山本太郎登場の意味が語られるとともに、立憲民主党とてを組むことによる政権交代の可能性にまで話が拡大していった。後編では、れいわ新選組とともに今回の参院選で大きく注目されたN国党、そして、来年に総裁選挙を控える自民党の動きについて聞いた。

 はたして日本の政治は、この先どこへ向かっていくのだろうか?

■N国党の持つ可能性

──前編ではれいわ新選組が「闘技デモクラシー」を起動させ、左派ポピュリズムを味方につけたという話がなされました。その一方、同じく「ポピュリズム」と言われ、政見放送においては「カーセックス」を連呼しながらながらも1議席を獲得した「NHKから国民を守る会」についてはいかがでしょうか?

中島:まず、彼らの主張する内容は、政治的に全く同意できません。

 ただし選挙戦略としては、「政治学を勉強していたのではないか」と思うくらいのとても賢い戦略をとっています。彼らが目をつけたのは、日本の不統一な選挙制度です。衆議院の小選挙区制ばかりが議論されがちですが、地方議会議員選挙では一つの選挙区から複数名が当選する大選挙区制がとられています。この選挙制度では、少ない得票数で当選が可能です。彼らは地方政治から攻めはじめ、インターネットを駆使するだけで動員が可能な数千票を獲得することで、地方議会に議席を獲得しました。この勢力をベースにしながら選挙区で候補を擁立し、比例で1議席を獲得するだけでなく、全国で2パーセント以上の得票という政党要件を満たしていったんです。

 これは戦略としては巧みなものであり、本来リベラル勢力もこのやり方を学べるはずです。市民グループが本当に取り組みたい「子育て」「年金」といった問題を掲げてシングルイシュー政党を結党し、1議席を獲得する。そして、外交問題などにおいてはほかの党に協力する代わりに、掲げているイシューに関しては飲み込んでもらうという戦略が取れるんです。

──山本太郎氏も演説の中で人々の情動を刺激したように、N国も「NHKが気に入らない」という国民の情動を掴んでいました。今回の選挙ではポピュリズムとともに、それを支える「情動」がキーワードだったように感じます。

中島:前編でも紹介したベルギーの政治学者シャンタル・ムフは、左派は合理主義的な政策論を展開するあまり、大衆から乖離してしまったと記します。彼女の議論の中心となるのは大衆の情念をどのように起動させるか、ということなんです。

 ただし、もちろん情動の功罪はあります。

 右派ポピュリズムは、ナショナリズムへと向かい、愛国、排外主義といった面を強く押し出しました。メディア、教育、アカデミズムといった既得権益と考えられている層へのバッシングを行い、人気を獲得していく。このようなやり方を日本で起動させたのは日本維新の会・橋下徹氏でした。N国党のポピュリズムは右派ポピュリズムのグロテスクな姿であり、日本維新の会との連続性が見られるんです。

──北方領土への視察時に「戦争しないとどうしようもない」などと発言し、日本維新の会を除名された丸山穂高議員も参院選後、N国党に入党していますね。

中島:そしてポピュリズムは、暴走するととても危険な状態をもたらす。今回の選挙では、SNS上などでれいわ新選組の支持者と立憲民主党支持者の間に激しい応酬が繰り広げられていましたが、ポピュリズムにおいては有権者の「感情」が動員されるので「枝野が気に入らない」「山本が邪魔だ」となれば、相手を感情的に攻撃してしまう。これは、ポピュリズムのネガティブな側面です。

 だから、ポピュリズムにおいては抑制できるもう一方の車輪として「熟議」が必要になる。そして、その役割をまずは野党第一党の立憲民主党が担うべきです。一方、残念ながら、右派ポピュリズムには熟議が機能していないのが現状です。

■自民党はネオコン政党になる

──では、今回の参院選の結果を踏まえて、自民党側はどのような政権運営を行っていくと考えられますか?

中島:普通に考えれば、オリンピックを契機に安倍首相が退任し、その後衆院選に打って出るという形になると思います。現在、次の総理大臣として菅義偉官房長官が有力候補と目されていますが、安倍氏は次の内閣に対してどのように自分の影響力を残せるかを考えているでしょう。それは、おそらく、自分に近い加藤勝信総務会長や萩生田光一幹事長代行などを幹事長に据えたいと考えているはず。政権が次の総理大臣に移った時、与党支持率が高い場合はすぐに解散、そうでなければ21年の衆議院議員任期が迫る中で解散という形を選ぶのではないかと思います。

 ただし、安倍首相が勝負を仕掛けてくるならば、まったく異なる道筋も見えてきます。

 現在、野党は選挙に対してまったく体制を整えられておらず、今、選挙戦を仕掛けたら自民党は圧勝することが可能かもしれない。消費増税の影響は3カ月程度で出てくるはずなので、年内に仕掛ける可能性もなくはありません。特に、安倍総理が自民党総裁4選を真剣に考えているのであればやるしか手はないでしょうね。

──中島さんは先日、『自民党 価値とリスクのマトリクス』(スタンド・ブックス)を上梓し、安倍晋三、石破茂、菅義偉、小泉進次郎など、現在の自民党の有力者たち9名の思想をその著書やインタビューなどから分析し、マトリクス化しています。

中島:政治はおもに「お金」と「価値」を巡って行われます。この「お金」を、「リスクの社会化」と「リスクの個人化」という軸で、そして夫婦別姓や同性婚といった「価値」の問題を「リベラル」と「パターナル」という軸で読み解き、自民党の政治家をマトリクス上にプロットしながら今の自民党の姿を浮き彫りにしています。

 マトリクスを作成してみてわかったことは、一見するとパターナルでリスクを個人化する安倍晋三氏から、リベラルでリスクの社会化をねらう野田聖子氏まで、自民党のリーダーは多様に見えること。ただし、彼らは20年前の河野洋平氏などが主導権を握っていた時代に初当選を果たしており、河野洋平氏や宮沢喜一氏などハト派として知られる宏池会出身の人々が中心となって選んだことで、多様性が担保されているんです。

 しかし、これまで安倍内閣で5回の選挙が行われています。自民党の衆議院議員のうち、過半数は安倍政権、もしくは安倍執行部の時代に初当選を果たした人々。パターナルでリスクを個人化させる信念を持った彼らが実権を握る10年後、自民党には多様性が失われ“ネオコン(新保守主義)的なイデオロギーだけの政党”になっていくでしょうね。

──「ネオコン政党」と化した自民党は、よりリスクを個人化しパターナルな価値観を推し進めていく……ということになりそうですね。

中島:かつて、自民党は決してそのような政党ではありませんでした。80年代までの自民党は保守本流を掲げ、リスクを社会化していくことを是としていたんです。例えば、田中角栄は、地元利権をフル活用し不透明な再配分を行った。高速道路、新幹線などで田舎の土建屋にカネを落とすことによって彼らを集票マシーンにしていったんです。その一方で裏金が飛び交い、権力者の言うことを聞かなければならない息苦しい時代でした。

 これを改革するにあたって、目指すべきは「透明な再配分」だったのに、再配分の構造そのものが否定され、リスクを個人が引き受ける時代に突入していく。橋本龍太郎氏や小泉純一郎氏らが構造改革を推し進め、リスクを個人化していったことによって生まれたのは1%の金持ちと99%の貧乏人という格差の構図です。それに加えて、安倍首相がパターナルな価値の方へと党の流れを引きずっていったんです。

──80年代以前に比較すると、自民党そのものの内実は、ほとんど別政党であるかのように変わってきているんですね。では、そんな自民党に対して、野党はどのような戦略を展開していくべきでしょうか?

中島:野党がとるべき戦略は、リスクを社会化し、リベラルな価値観を提示することだと考えています。実際、預貯金ゼロの国民は3割を超えており、国民の多くはセーフティネットを望んでいる。安倍首相はパターナルでリスクが個人化された社会を目指していますが、実は、そんな政治に対する有権者からの強い支持は少ない。「政権を担える船が一隻しかないから支持する」という消極的なものにすぎません。

──いわゆる「他にいい人がいない」という状況ですね。

中島:しかし、リベラルでリスクを社会化する側にも政権交代可能な船が浮かんでいれば、国民はそちらに乗り移ることができます。だからこそ、前編でもお話したように山本太郎氏と連帯する野党勢力に可能性を感じているんです。

 山本氏は人の情念をつかめる得難い人物であり、あんな人は野党側にはいない。彼はヤンキーのハートをつかむことができ、祭りの神輿を担いで盛り上がれる人物。比喩的に言えば、「くるりではなくエグザイルを聞く人にも寄り添える」のが山本太郎なんです。これは素晴らしい。ヤンキー的マインドを掴めなければ、選挙で勝つことはできない。

 今後、彼が、現在投票に行ってない5割の有権者を動かし、政治の中心になっていくことは十分考えられると思います。 

※写真/石田寛 Ishida Hiroshi

なかじま・たけし

1975年大阪生まれ。大阪外国語大学卒業。京都大学大学院博士課程修了。北海道大学大学院准教授を経て、2017年8月現在は東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授。専攻は南アジア地域研究、近代日本政治思想。2005年、『中村屋のボース インド独立運動と近代日本のアジア主義』で大佛次郎論壇賞を受賞。著書に『インドの時代』『秋葉原事件』『パール判事』『「リベラル保守」宣言』『血盟団事件』『ナショナリズムと宗教』『アジア主義』など。最新作『自民党 価値とリスクのマトリクス』がスタンド・ブックスから発売中。

『自民党 価値とリスクのマトリクス』発売:スタンド・ブックス

安倍晋三、石破茂、菅義偉、野田聖子、河野太郎、岸田文雄、加藤勝信、小渕優子、小泉進次郎。9人の有力政治家・首相候補の言葉、著作の分析を積み重ね、現在の自民党の本質をあぶり出す。「リベラル保守」を掲げる政治学者による、これからの日本の選択を考える際の重要な指標となる画期的自民党論。「右」「左」では表しきれない政治のあり方を、「価値」と「リスク」のマトリクスで読み解く!

最終更新:2019/11/27 18:46

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