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「キネ旬」激動の100年を綴る書籍『キネマ旬報物語』

総会屋のドンが社長に!? 元社員が語る『キネマ旬報物語』、映画ファンなら”絶対読むべき”理由とは?

『キネマ旬報物語』愛育出版/2400円+税

 1919年(大正8)年に創刊され、2019年7月に100周年(!)を迎えた世界最古の映画雑誌「キネマ旬報(じゅんぽう)」。その創刊から現在までの歴史を記した『キネマ旬報物語』が刊行された。著者は掛尾良夫。1978年から2013年まで同誌を発行するキネマ旬報社に在籍し、編集長も務めた人物だ。

 ちなみに、私(稲田)はキネマ旬報社の親会社に2002年から2008年まで、当のキネマ旬報社に2008年から2012年まで在籍していた。2011年には掛尾の著書『「ぴあ」の時代』の編集も担当したので、立場上、本書には並々ならぬ因縁がある。

 本書には、3つの大きな読ませどころがある。

 ひとつは、雑誌「キネマ旬報」と併走する国内映画業界の状況史として。これはもう、純粋に勉強になる。ネットでググってもたやすくは出てこない1920~30年代の興行事情、日本における外国映画の立ち位置の変遷、各時代の映画人や映画ファンの性向などが、古い資料や豊富なバックナンバーをひもときながら、克明に語られる。40代のこわっぱライター(私)からすれば、知らないことだらけだ。

そもそもなぜ総会屋が出版社の社長なのか?

 これに比べると、WEBの映画興行ビジネス記事でよく見かける「シネコン登場以降のスクリーン数の変遷」やら「製作委員会方式の功罪」やら「邦高洋低/洋高邦低傾向」等、ここ20~30年スパンの興行分析は、実に“近視眼的”に見えて仕方ない。

 ふたつめは、古参映画人の間でたまに話題になる、キネマ旬報社の社長が総会屋(!)だった時代の白井佳夫編集長解任(1976年)、およびルポライター・竹中労の連載打ち切りについて。業界内では俗に「キネマ旬報事件」と呼ばれているものだ。

 白井佳夫編集長体制について、掛尾は称賛を惜しまない。白井が推し進めた映画評論家以外の作家や政治家を起用したジャーナリスティックな企画、誌上での論争セッティング、読者の誌面参加促進などを、掛尾は高く評価する。

 その白井時代、竹中が「キネマ旬報」に連載していたのが「日本映画横断」「日本映画縦断」だ。竹中といえば、昭和を代表する“反骨のルポライター”。10代で共産党に入党(のちに党員資格剥奪)、山谷で肉体労働者経験、過激な労組活動で逮捕歴アリと、なかなの筋金入りだ。

 当時のキネマ旬報社社長は、文藝春秋社を創設した菊池寛の通い書生からはじまり、戦後は財界のフィクサーとして暗躍した上森子鐵(かみもり・してつ)。彼がなぜ白井を解任したのか、竹中の連載はなぜ打ち切りになり、その背景には何があったのか、そもそもなぜ総会屋が出版社の社長なのか。掛尾はその経緯を丁寧に解説する。

「キネマ旬報事件」のくだりはドキュメンタリータッチのルポとしても、よくできている。存命関係者のコメントも、おそらくは掛尾と当事者との関係性でしか引き出せないものだ。長らく映画業界人の間で語り継がれてきた同事件に、別の視座と印象を与えている点は大きな功績。Wikipediaへの項目追加を切に願う。

 3つめは、キネマ旬報社が角川書店傘下から映画配給会社のギャガ傘下に移った2002年以降、親会社のMBOやらベンチャーキャピタルの介入やらに翻弄・蹂躙されまくったキネ旬の“ドナドナ”状態(♪かわいい子牛 売られてゆくよ)に対する、掛尾の無念な想い。

「世界最古の映画雑誌」と言えば聞こえはいいが、掛尾はキネマ旬報社という会社が一貫して「編集と経営のバランスが常に課題であった」として、その時々の経営陣のミスジャッジや能力不足を暗に指摘する。たびたび襲う経営難やカネのトラブルが“人災”によるものであったことも、行間から読み取れるのだ。

 その“不具合”が加速度的に進行したのが、2002年以降である。経営陣のひとりとして渦中にいた掛尾の、親会社やベンチャーキャピタルに対する困惑、脱力、嘆き、憤り、無念はいかほどのものであったか。「キネマ旬報社がギャガの傘下に入ることには強烈な違和感があった」「この決定(当時の親会社フットノートとキネマ旬報社の合併)を私は本当に悔やんだ。(中略)キネマ旬報社は小規模だからこそ、どんな苦境も乗り越えてきた」といった言葉からは、苦しい胸の内が推し量られよう。

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