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萱野稔人と巡る超・人間学【第5回】

萱野稔人と巡る【超・人間学】「宇宙生物学と脳の機能から見る人間」(前編)

写真/永峰拓也

――人間はどこから来たのか 人間は何者か 人間はどこに行くのか――。最先端の知見を有する学識者と“人間”について語り合う。

今月のゲスト
吉田たかよし[医学博士]

今回のゲストは受験生専門の心療内科クリニック院長の吉田たかよし氏。NHKアナウンサー、政治家秘書、宇宙生物学、脳科学の研究者など、多彩な経歴を持つ吉田氏に生命の進化、人間の脳について問う。

“はやぶさ2”と生命の起源

萱野 吉田先生は東京大学大学院で、宇宙全体の観点から生命の成り立ちを考察する“宇宙生物学”を研究された後、医学部に再入学して医師免許を取得されました。NHKアナウンサーや政治家の秘書としても活躍され、現在は受験生専門の心療内科クリニックを開業されています。こうした極めて多岐にわたる経歴から吉田先生が「人間とは何か」についてどのようなお考えを持っているのかを、今回はおうかがいしたいと思います。まずは時事的なトピックでもありますし、小惑星探査機“はやぶさ2”の話から始めさせてください。

吉田 よろしくお願いします。

萱野 はやぶさ2が地球近傍小惑星“リュウグウ”の地下物質サンプルの採取に成功しました。このニュースは「生命の起源に迫ることができるかもしれない」と話題を呼んでいますが、そもそも宇宙の小惑星の地下物質と生命の起源がどうして関係があるのか、疑問に思う人も多いのではないかと思います。この点からご説明いただいてよろしいでしょうか?

吉田 まず、地球上に存在している生命を構成する最も基本的な物質は、水とアミノ酸です。

萱野 この2つが、生命が誕生するための根源的な必要条件であるということですね。

吉田 この2つがあれば、生命誕生の最低限の条件はクリアできます。まず、水は宇宙の至るところに存在しています。彗星は“汚れた雪だるま”なんていわれているように、ほとんどが凍った水でできていて、太陽の熱で溶けるから尾ができるのです。ですから、問題になるのはアミノ酸がどこから来たのか、ということになります。

萱野 アミノ酸といえば、結合して“タンパク質”を作るもの、というイメージがありますが。
吉田 アミノ酸から作られるタンパク質が、生物の“細胞”を構成するために最も重要な物質なんです。地球上で生きている生命はすべて、アミノ酸を組み合わせて作られた精密機械ともいえます。このアミノ酸がどこで生まれたのかという問題は、昔からさまざまな議論になってきました。かつて有力だったのは、アミノ酸は原始地球で生成されたとする説。1953年のアメリカの化学者ミラーの実験によるものです。この実験では原始地球の大気の成分とされるメタン、アンモニア、水素、水の混合気体に雷を再現する放電を行い、数種類のアミノ酸の合成に成功したんです。しかし、後に原始地球の大気にメタンやアンモニアが含まれていなかったことがわかり、ミラー説は怪しくなってきました。そこで、アミノ酸は地球ではなく、宇宙空間で合成されたのではないかという説が浮上してきます。それが何らかの方法で地球に運ばれて生命のもとになった、ということですね。私も東大工学部にいた頃、野辺山宇宙電波観測所で牡牛座暗黒星雲から飛んでくるマイクロ波の中にアミノ酸が合成される化学反応の痕跡を探すという研究プロジェクトに参加していました。しかし、アミノ酸の検出は大変難しく、これまで誰も成功していません。

萱野 宇宙空間でアミノ酸が合成されたと考えられる理由には、どのようなものがありますか?

吉田 太陽系にアミノ酸が存在する間接的な証拠はたくさん見つかっています。例えば、宇宙から飛来した隕石からもアミノ酸が見つかっています。隕石の表面には地球のアミノ酸が付着してしまっているのですが、隕石の内部からもアミノ酸が発見されているので、これは宇宙にアミノ酸が存在するという証拠のひとつです。とはいえ、隕石の内部で見つかったアミノ酸は微量なので、実験中の混入も完全には否定できません。ですから、はやぶさ2が持ち帰ってくる“リュウグウ”の地下物質が重要になるのです。もし、そこからアミノ酸が見つかれば、それはアミノ酸が太陽系に存在するという決定的な証拠になります。さらに、46億年前に太陽系ができたとき、地球などの惑星は誕生時のエネルギーでドロドロに溶けていますから、当然アミノ酸も壊れてしまっています。しかし、リュウグウなどの太陽から離れた小惑星は太古の状態をとどめているため、その地下物質からアミノ酸が検出されれば、アミノ酸は太陽系よりもさらに古いということになります。ということは、地球と同じタイプの生命が宇宙のさまざまな場所に存在していてもおかしくないわけです。そこにロマンがあるんですね。

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