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ドラマ評論家・成馬零一の「女優の花道」

吉岡里帆『時効警察』で取り戻した、「正統派に見えて実は邪道」という持ち味

ヒロインだと吉岡のよさは引き立たない

 有朱ちゃんは元地下アイドルで今はレストランでアルバイト店員として働いているのだが、なんともいえない壮絶なキャラクターの女性で、あだ名は淀君。過去にクラスを学級崩壊に追い込み、付き合う男を片っ端からダメにするという人の心を弄ぶ計算高い(しかし思慮が浅い)悪女だ。

 脇役だったが、アイドル的なかわいらしいルックスに隠された悪魔的な性格というギャップが視聴者を魅了し、吉岡のイメージは有朱ちゃんによって完成してしまったといえる。

 いまや吉岡は人気女優の仲間入りを果たし、映画、ドラマで主演に引っぱりだこだが、脇で必死に爪痕を残そうとしていた時に比べると、イマイチ精彩に欠ける。また、主演として正統派ヒロイン風の役をやろうとすると、どうしても有朱ちゃんのイメージが頭から離れず、“実は腹黒いのではないか”と、うがった見方をしてしまう。

「正統派に見えて実は邪道」というのが吉岡の持ち味だが、ど真ん中に置かれると、邪道な隠し味を殺してしまうのだ。

 しかし、『時効警察はじめました』の吉岡は水を得た魚のように生き生きとしている。これは、彼女が演じる彩雲が正ヒロインではなく三番手だったことも大きいが、何より『時効警察』の芯を外した作りが彼女の演技とうまくハマったからだろう。

 途中から彩雲の出番は明らかに増えており、“誰が一番、吉岡で遊べるか”という勝負の場にドラマが変質していったことが見ていてわかる。

 中でも映画『勝手にふるえてろ』でエキセントリックな女性の内面をコミカルに描いた大九明子が監督を務めた5・6話が素晴らしく、吉岡の魅力を最も引き出していた。

 その意味でも『時効警察はじめました』への出演は吉岡にとって幸運だったが、こういう作品はあくまで例外である。

 今後も吉岡は、アウェーである主演級の役柄に挑み続けるのか、それともこのまま名脇役として、おいしい立ち位置を確立するのか。個人的には後者のほうが幸せだと思うのだが、若手女優として人気が高いため、しばらくそれは許してもらえないのだろう。

 主演でありながら、彼女の邪道な演技が生きる役と出会えればいいのだが……。

成馬零一(ライター/ドラマ評論家)

1976年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。ライター、ドラマ評論家。主な著作に『キャラクタードラマの誕生 テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)、『テレビドラマクロニクル 1990→2020』(PLANETS)などがある。

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Twitter:@nariyamada

なりまれいいち

最終更新:2019/12/11 09:49
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