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『鬼滅の刃』はなぜ売れる? 1年足らずで累計250万部から4000万部に伸びたその実力を探る!

――マンガとアニメに限らず『鬼滅の刃』が大人気だ。コラボイベントを開催すれば人で賑わい、キャラクターのグッズや菓子も品切れになり、聖地やコスプレスポットにもファンが集まる。なぜ今、『鬼滅』ブームが巻き起こっているのだろうか?

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アニメの続編として制作されている劇場版『鬼滅の刃 無限列車編』については、来月10日、AbemaTv「鬼滅テレビ」にて新情報発表スペシャルが予定されている。

「週刊少年ジャンプ」(集英社)で連載中の『鬼滅の刃』の人気が止まらない。同作は主人公・竈門炭治郎が、鬼になった妹・禰豆子を人間に戻すべく、鬼殺隊の一員となって宿敵・鬼舞辻無惨へと迫っていく物語で、2月4日に発売されたコミックス19巻でシリーズ累計発行部数が4000万部(電子版含む)を突破。現在も順調に部数を伸ばしており、またufotableによって制作され、昨年放送されたアニメも好評を博し、今年は劇場版映画が公開される予定だ。

 昨年から始まった『鬼滅の刃』(以下、『鬼滅』)の人気を「社会現象」と形容することに異論を唱える人はもはやいないだろう。その一方で「なぜここまで人気なのか?」ということを解き明かすのは難しい。

 そこで、本稿では『鬼滅』ブームの実態とその実力を、さまざまな角度から探っていきたい。

『鬼滅』がなければ書店は前年比を割っていた?

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初版150万部を突破した『鬼滅の刃』の19巻。5月に発売される20巻では、ポストカード付きの特装版も販売予定。

「昨年6月から、コミックス全体の売り上げ金額が8カ月連続で前年比を超え続けているのですが、これはほぼほぼ『鬼滅』のおかげと言っていいでしょう。例えば日本出版販売(日版)の調査によると、年始年末(12月28日~1月3日)の売り上げは3年ぶりに100%を超えた上に、12月期、1月期は2カ月連続で店頭売り上げ(雑誌や書籍、コミックスなどの全体売り上げ)の前年比は100%を超えました。しかし、『鬼滅』がなかったらと仮定すると、12月期、1月期ともに100%を割ってしまうそうです」

 そう語るのは出版市場に詳しいライターの諸山誠氏。出版不況が叫ばれて久しいこのご時世だが、昨年の出版市場は22年ぶりに回復し、上昇に転じた。前述の通り『鬼滅』は累計4000万部を売り上げていることからも、同作は出版市場の回復の一役を担ったともいえよう。

 また、同作は昨年12月に出版された18巻の「初版部数100万部」ということも大きな話題となったが、今年2月発売の19巻はそれを上回る「初版150万部」。ただ、過去を振り返るとコミックスの初版が100万部を超えることはそう珍しいことではなく、例えば13年には『黒子のバスケ』と『暗殺教室』(共に集英社)が同時発売で初版100万部を達成しており、『鬼滅』は「ジャンプ」史上21番目の初版100万部超え作品ということになる。その一方で諸山氏は「『鬼滅』の真の実力は既刊の売れ方」と、力説する。

「日販の運営する『ほんのひきだし』というサイトで公開されている、『鬼滅』の最新19巻が発売される前の1月27日~2月2日の集計で、コミックスのベストセラーランキングの1位から18位までを『鬼滅』の既刊が独占しています。最新刊の発売とともに既刊の一部が売れるのはよくあることですが、1巻から最新刊の前巻まで、これほど多くの既刊も一緒に売れるというのは、私はこれまでに見たことがありません。また、日販の店頭POS調査によると、既刊がランキング入りし始めたのは昨年8月中旬頃から。この時期に何があったかというと、ちょうどアニメ版で19話『ヒノカミ』回が放送された直後のタイミングです。この回は『神作画』だとネット上で大きな話題になっていたため、アニメから新規の読者層が増えていったと推測できるでしょう。『鬼滅』は『ワンピース』や『キングダム』(共に集英社)などと比べると、巻数がまだ少なく、集めやすいから既刊も売れているのかもしれませんが、それでもここまで売り上げが伸びたのは驚異的です。昨年2月のシリーズ全体の累計が250万部だったのが、1年足らずで4000万部突破ですからね」

 このようにアニメの視聴者がコミックス市場に流れたことで、既刊の売り上げも急増した『鬼滅』だが、アニメ放送開始が4月なので、既刊も売れ始めた8月中旬というのは、タイミング的には物語の終盤であり、かなり遅いほうと言える。1クール作品が普通となっている、昨今のアニメ業界の実情を考慮すると、「もし『鬼滅』も1クールだったら今のような人気にもなっていなかったのでは?」とも思えてしまう。

 実際「ほんのひきだし」で「ヒノカミ」回の前に発売された巻の順位を見ていくと、4月1日~7日集計のランキングで15巻が8位に、7月1日~7日の集計で第16巻が3位となっている。当時新刊だったのにこの順位であり、じわじわ火が付きつつも、まだ本作の人気が爆発していなかったことがわかるだろう。

 このように、これまでにはなかった売れ方を見せている『鬼滅』だが、その需要に供給が追いついているとは言い難く、現場では「既刊」の品薄状態が続いている。

「『鬼滅』は常に品薄状態で、集英社も重版を繰り返していますが、売れ行きのスピードに追いついておらず、不満を抱く書店も少なくない。他の書籍と違い、コミックスは出版社が書店への配本数を管理しており、取次もほとんど関与できないんです。出版業界には売れなかった本を書店が版元に戻せる返本制度があるため、出版社としても慎重にならざるを得ないのはわかります。ただ、その人気が版元の想定を超えてしまった面も確かにあるでしょう。。19巻の初版部数が前回の18巻の100万部から150万部に増えたのは、18巻が100万部あったのにも関わらず、多くの書店ですぐに売れてしまったという、反省もあったからではないでしょうか」(同)

 前述したように本が売れないこのご時世にも関わらず、100万部刷ったらすぐに売り切れ、同時に既刊本も売れて、多くの書店で品切れ状態が続く。『鬼滅』はこれまで出版業界が経験したことのなかった現象を引き起こしているということだが、この流れはしばらく続くと諸山氏は予想する。

「今年は劇場版映画の公開も控えていることから、版元は調整しつつも、増刷対応していくでしょう。書店としてはすぐにでも足りていない既刊本を補充したいところですが、まだまだブームは続くと考えられるため『今日届かなかったら、2週間後に届いても売れない』と販売機会を逸してしまうという状況でもありません。ただ、5月1日に発売される20巻にはポストカードの付く特装版もあるため、客からどんどん注文が入った結果、今の段階で『足りるのだろうか……』と、不安になっている書店も少なくないと聞きます。また、コミックス以外にも『鬼滅』のファンブックも店頭に並ぶと瞬く間になくなるほど売れており、業界内でも売れないイメージのあるノベライズですら人気です。配本が行き届いていない面もあるにせよ、出版業界的には『鬼滅さまさま』という感じでしょうね」(同)

あまりの『鬼滅』人気に他のイベントに人が来ない!?

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『鬼滅』は出版業界に活気を戻しているだけではなく、アニメ化したことで、コンテンツビジネスとしても展開している。キャラクターのイラストが描かれたスマホケースや、キーホルダーなどグッズも数多く販売されていたり、ufotableCafeでの「キャラクター絵巻カフェ」 など、コラボイベントも多く開催されており、そこでしか入手することのできない限定グッズなども販売している。

 もっとも、イベントやグッズ展開を行なっているという意味では従来の人気アニメも同じ。しかし、アニメ業界関係者のA氏によると「他作品と大きく異なる点がいくつかある」という。

「『鬼滅』のイベントの客層は親子連れが多いのが特徴で、半分程度がファミリー層なんです。熱狂的なオタク層が中心の他のコラボイベントとは雰囲気が違っていて、小学生くらいの子があちこちで『水の呼吸~』と、作中のキャラクターのごっこ遊びをしている光景も見ました。ただ、そうした中でも、オタクのファンがしっかりと残っていることは印象的でしたね。基本的にオタク層は『一般受け』し始めると離れてしまうものですが、『鬼滅』の場合はそれがないんです」

 子どもたちからも人気の『鬼滅』だが、実はそのアニメの放送時間は深夜帯だった。これは「Amazonプライム・ビデオ」や「dアニメストア」など、有料動画サイトでの視聴が以前に比べて一般化するなど、世間のアニメの視聴形態が変わっているのも一因かもしれないが、従来『ワンピース』のように平日の夕方やゴールデンタイム、もしくは休日の朝に放送されることで、子どもたちからの支持を得てきた「ジャンプ」のアニメが、深夜帯でも見られているということからも『鬼滅』の異質さが伺える。

 ファミリー層と従来のファン層、両方を獲得した結果、イベントには多くの客が集まったというが、その一方で両方が同時に客層となったことで、ちょっとした弊害も発生しているという。

「アニメのコラボイベントでは、どのキャラクターが出るかは購入して開封するまでわからない『ランダムグッズ』が700~800円で販売されることも多いのですが、ファミリー層からは『どうして好きなキャラクターのグッズが買えないの?』という、不満の声がちらほら出ていました。オタクたちの間では、全部のキャラクターが揃っているボックスセットを購入したファン同士で、それぞれの推しキャラを交換し合って好きなキャラだけを集める文化があるのですが、冷静に考えればファミリー層の感覚が当たり前なんですよね(笑)」(同)

 たしかに700~800円払っても、好きなグッズを購入できないというのは、一般的とも言えず、イベントの客層がファミリー層ではなく、熱狂的なファンが主だと予想されたために起きた事態ともいえよう。また、『鬼滅』の急激な人気によって、他作品のコラボイベントが弊害を受けてしまうこともあるという。

「いくら人気作品といっても、コラボイベントは外的要因によって人が入らないこともあります。例えば某ジャンプ系作品は、もともとついていたファミリー層のファンが全部『鬼滅』に流れてしまい、イベントが閑散としていたそうです。この作品の人気がなくなったのではなく、『鬼滅』の人気が上がりすぎて、ジャンプ内で共食いが起きているのが現状です」(同)

 他作品を喰うほどの人気を博している同作。今年に入ってから「鬼滅の刃ウエハース」というコラボ商品も発売されたが、すぐに各地のコンビニで品切れ状態になった。ぬいぐるみやスマホケースだけではなく、もはや「何を出しても売れてしまう」ほど、ブームは加熱していると言っても過言ではないだろう。

物語に登場しない神社が聖地化!

 このようにとどまることを知らない『鬼滅』ブームだが、アニメファンには定番の「聖地巡礼」も盛んになりつつある。それも物語と関係のない地域で。

 例えば大分県の八幡竈門神社(別府市)と福岡県の宝満宮竈門神社(太宰府市)は、同作の聖地としてファンが集まっているという。聖地として人気の理由は(1)主人公の「竈門」という名字が神社の名前に入っている、(2)鬼にまつわる伝説があるというもので、その活気の様子が「県内外のファンが訪れ、境内を撮影。登場人物を絵馬に描いて願いを込め、『竈門』の字が入ったお守りを記念や土産に買っている」と、「大分合同新聞」などで報じられている。

 しかし、作中で何度も言及があるように、『鬼滅』の舞台は大正時代の「東京府」であり、九州に関する描写も、福岡や大分にゆかりのキャラクターは出てこない。つまり、これらの神社は同作とは何の関係性もないのだが、この現象は「朝日新聞」や『めざましテレビ』(フジテレビ系)でも取り上げられている。

 さすがに、ここまでくると『鬼滅』の勢いを感じるというよりも、ブームが行きすぎてしまったようにも思えるが、これら神社の聖地化に関して、『聖地巡礼 世界遺産からアニメの舞台まで』(中央公論新社)などの著作を持つ、北海道大学の岡本亮輔准教授は、次のように語る。

「主人公の名前に引っかけて、実在の神社が聖地になるのは面白い現象です。ただ、舞台でもなんでもない場所をファンが独自に聖地化するのは昔からあることで、例えば『攻殻機動隊』ではファンが香港に行ったりしていましたし、『君の名は。』でも作中の糸守町と似た風景をファンが独自に探し出し、勝手に聖地にしています。飛騨高山が舞台のひとつであるとはわかってはいるものの、神社がどこか、どの町をモデルにしているかなど、具体的な明言がなされていないにも関わらずです。なお、このような現象はアニメに限った話ではなく、例えば嵐のメンバーの名字と同じ神社を回るファンもいるので、今回の『鬼滅』の神社もそういうものの一種でしょう」

 ファンによる勝手な聖地化は決して珍しいものではないということだが、一方で「西日本新聞」によると宝満宮竈門神社の神社権禰宜(ごんねぎ・神社において神に奉仕し祭儀や社務を行う者)が聖地化を意識し始めたのは、「境内でコスプレ撮影をしていいですか?」というメールが届いてからだという。神聖な場所というイメージがある神社だけに「コスプレしたアニメファンが集まったところで、神社側はうれしいのだろうか?」という、疑問が浮かぶ人も少なくないだろう。

「確かに、神社でコスプレ撮影を行なうなど、一部ファンの行動が問題になる事例は珍しくなく、地元民から問題視されることもあります。ただ、お寺に比べると檀家のような固定客がもともと少ない神社は、財政基盤が弱く、近年では個性を出さないと維持できなくなっている現実があります。例えば、東京でいうと昔はお宮参りと言えば地元の神社に行くものでしたが、みんな水天宮に行ってしまうというように、最近では歴史やストーリーのある神社がほとんどの客をとってしまうんですね。そういった構造もあり、小さな神社がアニメ聖地になることを受け入れやすい雰囲気も増しているのではと思います。ちなみにコスプレ撮影についてですが、『らき☆すた』の聖地となった鷲宮神社は、日時を限定することで受け入れており、放送から長い年月がたっても聖地であり続ける要因となっています。コスプレフレンドリーかどうかは聖地化するかの分かれ道とも言えますね」(同)

 ちなみに、「SankeiBiz」によると、奈良県・柳生地区にある縦に真っ二つに割れた直径約7メートルの巨石「一刀石」もファンたちのコスプレスポットになりつつあるようだが、他方で「鬼」の伝説が残されている地域は日本中どこにでもある。今後、他の寺社でもなんとか由来をこじつけて『鬼滅』の聖地化を狙っていく動きも予想されるが、岡本氏は「必要な生存戦略」だという。

「実際、『君の名は。』の四谷須賀神社は、映画のラストシーンで有名になりましたしね。ただ、四谷須賀神社の場合は立地がとても良かったという背景があります。今回発見されたのは九州の神社でしたが、もともと東京は宗教資源や文化資源が多い場所です。本来『鬼滅』は東京が舞台のようですし、物語の展開次第では新たな発見が生まれる可能性もあるのではないでしょうか」(同)

 そんな『鬼滅』だが、現在物語は敵味方関係なく次々と倒れるという文字通りのラストスパートに入っている。最終決戦もそろそろ終わりそうな展開だが、『鬼滅』ブームの恩恵を受けている出版業界、コラボイベント、そして聖地となった神社側からしてみれば、もう少し宿敵である鬼舞辻無惨には粘ってほしいと思っているのかもしれない。

(編集部)

サイゾーpremiumより

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最終更新:2020/04/28 20:03
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