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『魔改造の夜』は世のエンジニアを刺激したか 魔トースターが食パン宙に跳ばし、魔ワンちゃんも超高速移動!

『魔改造の夜』は世のエンジニアを刺激したか 魔トースターが食パン宙に跳ばし、魔ワンちゃんも超高速移動!の画像1
NHK公式サイトより

 6月19日、26日と2週にわたって放送されたBSプレミアム『魔改造の夜』がとにかく話題だ(6月25日、7月5日にはNHK総合でも放送)。

 同番組HPでは、「魔改造」を以下のように定義している。

「“日常使用の家電”や“子どものおもちゃ”にあり得ない改造を施し、えげつないパワーを放つモンスターマシーンに作り替えること」

「ミニ四駆のようなおもちゃを、とてつもない猛スピードで走らせるだけでなく、頭上高くジャンプできるように改造してしまうとか……。ギターのような楽器を、形状ごとすっかり変えて星形のボディーにしちゃうとか、ネックを3本も4本も増やすとか……」

 そこで、同番組は選りすぐりのエンジニアを招集し、“日常使用の家電”や“子どものおもちゃ”に、あり得ない改造を施させた。参加したのは、日本の最高学府の頂点に君臨するT(東京)大学、墨田区町工場の希望の星であるH(浜野)製作所、自動車産業の巨人である世界のT(トヨタ)社(番組内では伏せ字になっているがバレバレ)という、最高レベルの技術力を誇る3チームだ。

世界のトヨタが全力で食パンを宙に跳ばす

 さて、彼らに何をさせるのか? まず、最初のお題は「ポップアップトースターで、食パンをどこまで高く跳ばせるか!」。つまり、トースターを魔改造するのだ(しかも、トースターメーカーの担当者が立ち会っている)。というか、なんでトヨタが全力で上空に食パンを跳ばすのだろう? まさに、人材の無駄遣い。偏差値、下町、大企業という、戦わせたら面白くならないはずがない三つ巴である。

 また、競技上のルールが良かった。基本的には、パンを焼く機能を残していればあとは自由。ただし、「パンはおいしく焼くこと」という一線を超えてはいけない。ただの高跳びじゃない。何でもありではないのだ。制約があるからこそ、エンジニアたちも燃えるはずだ。

 3チームが施した魔改造にはそれぞれの個性が色濃く出ていた。東大が辿り着いたのは、トースターがまっぷたつに割れ、外側に付いた回転アームで焼き上がったパンを投げ飛ばす“ハンマー投げタイプ”だった。メーカー担当者の心象に全く配慮しない手法からは、向こう見ずな若さを感じる。トースターの改造なのにトースター本体を邪魔と考える、枠にはまらない発想に拍手だ。

 結果、東大のトースターの1投目は失敗した。手放すタイミングを誤り、無残にもパンが力強く地面に叩きつけられたのだ。パンが一体、何をしたというのだ……。しかし、すぐさま投げるタイミングを0.057秒早め、不具合に対処する東大チーム。2投目で、彼らは見事に5mの高さまでパンを投げ飛ばしてみせた。この一か八か感は若さの特権か? そう考えると、1投目の失敗が尊く思えてくる。

 何より、失敗さえ見どころにするこの番組のスタイルが信用できた。1度や2度の失敗はエンジニアには付きもの。それがドラマになる。だから、砂を掴んで立ち上がる姿も余すところなく放映するのだ。こういうコンセプトならヤラセも起こらなさそうだし、一安心である。

 一方、浜野製作所とトヨタ社の魔改造は、奇しくも似た方向性だった。トースター上部に設置した高速回転ローラーが焼き上がったトーストを巻き込み、勢いよく打ち上げる方式だ。最善のものを求めていたら自ずと着地点は似通ってくる。そんな定理を、企業2社の最終形が端的に表している。大人の経験値と分別を不意に感じてしまった。

 特に、浜野製作所の魔改造トースターの1投目は物凄かった。目にも留まらぬ速度で唸るローラーに挟まれ、とんでもない勢いで天まで翔けるパン。昔、漫画『浦安鉄筋家族』(秋田書店)で見た、天井を突き破るオーブントースターを思い出した。パン粉を落としながら昇天する光景は、まさに下町ロケットだ。

 見たところ、飛距離は申し分ない。明らかに10mに達している。でも、仕上がりが良くなかった。ローラーの圧力でパンがちぎれていたのだ。つまり、「パンはおいしく焼くこと」のルールに抵触している。浜野製作所の1投目は惜しくも失格だ。パンに優しくない魔改造の浜野製作所、トースターに優しくない魔改造の東京大学といったところだろうか?

 パンが無残な姿になってしまったのは、どうやら、現場の気温が予想以上に低かったのが原因らしい。シチュエーションが影響し、パンが半焼けだった。すると、浜野製作所は事前にトースターを温めるという対応策を思い付く。カリッと仕上がったパンならば、きっとちぎれないはず。パンの焼き上がりに留意し、即座に対応する姿勢はプロである。結果、2投目で浜野製作所は世界記録9m95cmを樹立した。苦難を乗り越え成功に到達した瞬間、エンジニアと共に見ている我々も思わずガッツポーズだ。まるで、スポーツ観戦のようなノリ。そのくらい、魔改造は熱いのだ。

 ちなみに、実況とナレーションもスポーツ仕様だった。「鬼が出るか、蛇が出るか!?」と煽るナレーションは、否が応でも視聴者の期待感を高揚させる。まあ、ローラーから出るのはパンなのだが。

愛くるしいワンちゃんのおもちゃも“地獄の魔犬”に変わり果て…激走

 2つ目のお題は「ワンちゃん25m走」。25mを12分以上かけてテクテク歩く、可愛らしいワンちゃんのおもちゃを魔改造し、超速で走らせて1位になったチームが勝利という競技だ。出場者に課せられたルールは「顔を残せば後は自由」というもの。

 このテーマでも、各チームの個性が出た。筆者が最も推せるのは「見た目は変えたくない」という考えのもとに魔改造した浜野製作所である。傍目から見れば「何を変えたの?」と思われそうなワンちゃんだが、密かに鋭利な金属の爪が滑り止めとして仕込まれている。社員からも終始可愛がられており、撫でられるたびに生命が吹き込まれるかのような魔改造ワンちゃん。愛にあふれていた。

 そんな原型をとどめた浜野製作所のワンちゃんの直後に登場した、トヨタの魔改造ワンちゃんに会場はどよめいた。試作にもらったワンちゃん4匹の顔を全て首にくっつけ、グロテスクな容姿になっていたのだ。3つの頭を持つ犬の怪物・ケルベロスに酷似した地獄のフォルム。「4匹みんなを走らせてあげたい」という思いからこんな形になったと解説するエンジニアはニコニコしており、その説明を他チームはドン引きしながら聞いている。温度差が異常。トヨタ社はマッドサイエンティストを擁しているのか? 4匹それぞれが別の方向へ走り出し、なかなか前に進めないという嫌な妄想をしてしまった。

 ちなみに、トヨタはワンちゃんの後ろ足に義足ランナーのブレード的部品を取り付けたよう。こうして飛び跳ねるように走らせるという算段だ。しかし、跳ねすぎると脚に回転が伝わらずスピードが出ないし、コースアウトのリスクも高まる。なるほど、四つ首にしたのは重みで跳ねるボディーを押さえつける目的もあったのだろう。

 この競技は、25mの直線コースを、3チームが一斉にスタートするレース形式で行われた。序盤はスタートダッシュに成功した浜野製作所のワンちゃんがリードしたものの、爪の刃が削れて次第に失速。中盤からはモンスターのような四つ首ワンちゃんが猛烈な勢いで追い上げ、最終的にぶっちぎりでトヨタの勝利となった。やはりトヨタ、地を走る技術では負けられないということか。

 勝敗もさることながら、このお題は開発者の美学が透けて見えたところが良かった。機能性のみ追求するのか、可愛さと実用性を両立させるのか? そういう意味で、バランスの良い浜野製作所が筆者は推せた。

 ところで、東大のワンちゃんの走りはどうだったか? 彼らは強力なモーターで脚の回転数を高め、脚を伸ばして歩幅を大きくするという魔改造を施していた。しかし強力なパワーに部品が耐えられず、本番では片脚が折れてしまった模様。結果、彼らのワンちゃんはスタート地点から1歩も動けなかった。レース後、番組そっちのけで敗因を調べ、悔やみ続ける東大エンジニアの姿が印象的だった。

 今回のハイライトは、ここだったと思う。うまくいかずに悔しがり、うつむきながら自ら不具合を解説する若き技術者。理系じゃなくてもエンジニアにしっかり感情移入できる番組の作りは最高だった。

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