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有吉弘行が突然”いい人”になった!?  『有吉の壁』で見せる“笑い”の手数で知るネタの傾向と対策

文=檜山 豊(ひやま・ゆたか)

『有吉の壁』(日本テレビ系)より。

 バラエティを頻繁に見る人ならずとも、「お笑い第七世代」は一般的に定着したと言えるだろう。霜降り明星をはじめとする、人気上昇中の若い世代のお笑い芸人を総称して、そう呼ぶ。ちなみにこれを書いている僕も昔、ホーム・チームというコンビでお笑いをやっていたことがあり、自分が何世代だったかを調べてみたら第5世代だった。

 もちろん、個々でも活躍を見せるお笑い第七世代だが、先輩との絡みによってさらに輝きを増すことがある。その最たる番組として今回は、『有吉の壁』(日本テレビ系)にスポットを当ててみよう。

 見たことない人でも、番組名を聞いただけで誰が出演しているかわかる。あの人気お笑い芸人・有吉弘行がMCを務める大人気番組だ。若手が与えられたシチュエーションの中で、衣装や設定を駆使して「いかに有吉さんを笑わせることができるか!」という内容で今年の4月からゴールデンタイムに昇進。さらにはコロナ禍という苦境を逆手に取り、芸人が自宅でネタを披露するといった“ウィズコロナ”な企画の数々で成功を得ている。

 チョコレートプラネットやシソンヌなど、特番時代からこの番組に出演し、注目を浴びるようになった若手芸人は数知れず。

 でも今回は、そんな若手芸人ではなく、MCの有吉弘行さんに、改めて着目し、元お笑い芸人の視点で解説してみたい。

 有吉さんといえば、ひと昔前は「悪意に満ちたあだ名」や「歯に衣着せぬ発言で人を傷つける」というイメージがあった。しかし今は真逆で、いつのまにかに“切れ味は鋭いが、根本は良い人”というイメージが定着している。

 現に7月30日に放送された『アメトーーク!』(テレビ朝日系)の「芸人大好き芸人」の回では、品川庄司の品川をはじめ数多くの芸人から「愛に溢れる人」や「一番言われたい悪口を言ってくれる」など、テレビで称賛されこととなった。

 こう思われる理由のひとつに、有吉さんのテクニック、”笑う”のバリエーションの多さがある。いろんな方法で相手を笑わせる、”笑わせかた”のバリエーションではなく、文字通りTPOに応じてみずからが“笑う”といった意味だ。

「本当に面白くて笑う」
「場の空気を温める為に笑う」
「視聴者やスタッフに『これは面白いんだよ』と示す為に笑う」
「毒舌後のフォローの為に笑う」
「芸人をやりやすくする為に笑う」
「番組進行を考える間を持たせる為に笑う」

 『有吉の壁』を見るだけで、少なくともこれだけのバリエーションを使いわけていた。もちろん細かく分析すれば、もっと多くの”笑う”を使っていると思う。

 しかもこの行為は、若手芸人の育成にも繋がっているのだから、唸るしか無い。仕事で部下を持つ人は是非真似をしてみてほしい。もちろん部下の行為に対してただ笑えという事ではなく、若手芸人に対する“笑う”は、褒める事と同じなのだ。

 たとえば2020年6月に放送された『遊園地の中に潜んで有吉さんを笑わせる』という回では、バイキングの小峠英二とシソンヌのじろうが組み、ひよこのオスメスを見分けている係員という設定で有吉さんに挑んだ。

 有吉さんは、まず2人の設定を見て理解した段階で、彼らがまだボケも何もしていないのに“笑う”。もちろん2人に聞こえるように笑うのだ。

 この笑い声のお陰で2人は、これから続くネタが圧倒的にやりやすくなるのである。自分たちのやりたい事を理解してもらい、しかも笑ってもらえたからだ。

 この笑い声の凄さはそれだけではなく、同時に撮影するカメラマンに対する、「ここに注目して」という合図でもあるのだ。

 ネタの内容はひたすらシソンヌじろうがオスメスを見分け、小峠が「違う!」というだけのボケ。

 たったそれだけで笑わせる2人ももちろん凄いのだが、ボケのスタートからピークまで笑い続け、ピークを過ぎた瞬間に審査して終わらせる有吉さんの“笑う”テクニックはやはりすごい。

 しかも経験値の浅い若手芸人に対しては、笑いのハードルを下げて、及第点くらいの笑わせ方でも“笑う”。つまり仕事として間違った方向へ行っていなければ、とりあえず褒めるのだ。

 理不尽な彼女と振り回される彼氏のネタで、「キングオブコント2,017」で決勝へ進出した男女コンビ・パーパーへの対応が、まさにそれだった。

 アスレチックで水に浮く橋を渡るカップル。彼氏は楽々と渡るが、彼女は怖がって渡ることができない。すると彼女が「ケンジ君渡れない~」と彼氏に言う。この一連のやりとりに対して有吉さんは「そりゃ怖いよ」と、同調してみせるのだ。

 同調、つまり強調することにより、些細なボケでも笑いやすい空気を作っているわけである。

 そして彼女のほうが「ケンジ君、いつものやって」というと、すかさず有吉さんは「怖いな~」と、“ケンジ君”が水に入るんじゃないかというのを匂わせる。

 芸人と水。この2つがあった場合、多くの人は水の中に芸人が入るということは容易に想像つくだろう。想像どおり、彼氏が水に入り、彼女に踏ませて渡らせるというボケだった。想像はつくが間違いではない。有吉さんはそれを見て笑うのだ。

 笑ってもらった若手芸人は、テンションが上がり、さらに頑張って笑わそうとする。パーパーも一度でやめることはなく、何度も水に入る。つまりやる気と向上心が上がった証拠だ。

 ただし、有吉さんはすべての若手芸人に対してそうするわけではない。番組中及第点を出しても、 “笑わ”ない時もある。それは千鳥やハライチなど実力がある芸人に対してだ。

 簡単な例でいうと、番組のオープニングで若手と絡む際、冒頭からサンシャイン池崎が全開でボケた回があった。カメラにドアップになる距離まで前に出て、さらには床に根っこがって一言。「有吉の床!」と大声で叫んだ。

それに対して有吉さんはか細い声で「……はい」と。もちろん「……はい」の後には『フォローの為の“笑う”』も入れている。

 笑わない事で生まれる笑いもあるが、そうではなく笑わない事で「お前たちはそんなもんじゃないだろ?」「まだやれるだろ?」という意思を伝えている。実力がある芸人は、有吉さんを笑わせるために試行錯誤しそのハードルをちゃんと越えてくる。そこで初めて有吉さんは“笑う”のだ。

 つまりある程度経験を積んだ部下はすぐに褒めるのではなく「お前たちはそんなもんじゃないだろ?」「まだやれるだろ?」と促し、さらに良いもの出してきてから褒めることで、さらに成長させるわけだ。

「……はい」と言われたサンシャイン池崎も、それまでの大声のさらに上の声で有吉さんにツッコミ、その場を笑いに変えていた。

 ただ、この方法には必要不可欠なものがある。それは有吉さんと芸人との信頼関係だ。笑わない時でもMCを信じ「笑わないのには理由がある」「この人を笑わせたい」――そう考えさせる/そう思ってもらえるMCでなければいけないのだ。部下があなたを喜ばせたいと思える上司になることが先決である。

もしあの頃、こんな先輩が近くにいたら、僕はまだ楽しんでお笑い芸人を続けていられたかもしれない。番組を見ながらそんな事が頭をよぎった。

檜山 豊(ひやま・ゆたか)

檜山 豊(ひやま・ゆたか)

1996年お笑いコンビ「ホーム・チーム」を結成。NHK『爆笑オンエアバトル』には、ゴールドバトラーに認定された。 また、役者として『人にやさしく』(フジテレビ系)や映画『雨あがる』などに出演。2010年にコンビを解散しその後、 演劇集団「チームギンクラ」を結成。現在は舞台の脚本や番組の企画などのほか、お笑い芸人のネタ見せなども行っている。 また、企業向けセミナーで講師なども務めている。

Twitter:@@hiyama_yutaka

【劇団チーム・ギンクラ】

最終更新:2020/08/18 19:30

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