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『麒麟がくる』の織田信長は“おしゃべり”過ぎる? 実はコミュ障で文章ベタだった史実の信長像

文=堀江宏樹(ほりえ・ひろき)

大河ドラマ『麒麟がくる』(NHK)が、ますます盛り上がりを見せている。ドラマをより深く楽しむため、歴史エッセイストの堀江宏樹氏が劇中では描ききれない歴史の裏側を紐解く──。前回はコチラ

 NHKのYouTubeでも公開されている「光秀のスマホ」というミニドラマがじわじわと面白いです。読者はご存知でしょうか。

 スマホを使えて、戦国の乱世をリアルタイムで実況することのできる世界線の光秀が、突然くる鬼上司・織田信長からの着信にビビったり、憎たらしいライバル・豊臣秀吉とビデオ通話をしたり、SNSの鍵アカウントでこっそり愚痴をこぼしたり(そして本アカに誤爆したり)……といったコメディタッチな動画です。

 また、この動画と連動して「スマホを持ってる明智光秀@NHK」というアカウントのツイッターを開設。こちらでは『麒麟がくる』の実況なども行なっています。

 前回11月8日の「逃げよ信長」の放送では、明智光秀(長谷川博己さん)が、浅井長政の裏切りに怒る織田信長(染谷将太さん)に理性を取り戻させるべく、「織田信長は死んではならんのです!」と一喝するシーンがありました。それに対し、「スマホを持ってる明智光秀@NHK」アカウントでは「オレが言うな」と絶妙なツッコミを入れ、フォロワーたちを大いに沸かせていました。

 前回、前々回の放送を見ていて、実は筆者も思ったことがあります。史実の織田信長も、今年の『麒麟がくる』の信長のような人柄であれば、「本能寺の変」など起こらなかったのではないか……と。

『麒麟~』の信長は非常によくしゃべりますよね。自分の気持ちを雄弁に言葉に乗せて語ります。だからこそ、染谷将太さんの熱演にもかかわらず、「今年の信長は、信長らしくない気がする」という声もちらほらと聞くのかもしれません。これまでの大河ドラマなどで、信長があれだけペラペラとしゃべったことはなかった気がします。

 それでは史実の織田信長のコミュニケーション能力は……というと、ものすごく低いと思われるのです。

『麒麟~』でも、斎藤道三と若き日の信長の会談シーンが描かれました。噂通りの“うつけ者”であるかを確認するべく、斎藤道三が覗き見していると、本当にラフな服装・髪型で会談の会場まで信長が向かっていくのがわかり、「やっぱダメだ」と思う。しかしいざ対面という時には武家の若様にふさわしい髪型、立派な装束に着替えた信長が現れ、そつのない対応を見せ……というシーンだったのを記憶の読者も多いでしょう。

 信頼できるとされる史料『信長公記』によると、信長の外見の“劇的ビフォーアフター”があったことは事実のようですが、問題はむしろそこからでした。信長が「おっとりと構えている」などと記述があり、その「おっとり」が過ぎるのです。斎藤道三が屏風の影から登場しても、表情ひとつ動かさず、自分の家臣から斎藤道三の家臣を紹介された時になって、はじめて「であるか」とだけ言ったそうなんですね。

 信長の口癖として有名な「であるか」ですが、これしか言えなかったという説もあります。

 その後のことは特に書いてありませんが、道三の家臣が、「殿、やっぱり信長は“うつけ”でしたね」と言っているのも重要かと思われます。

 史料から察するに、この会談中にも、信長は「であるか」しかほとんど言えなかったのではないでしょうか。そんな信長の代わりに会話を進めたのは、織田家の家臣(たち)だったのでしょう。しかし、斎藤道三は「信長は只者ではない」と、信長の器量を“見抜いた”らしく「残念だが、私の息子(斎藤義龍)は、その“うつけ”の家の門の外に馬をつなぐようになるだろうよ」……つまり、自分の子・斎藤義龍の器量では、信長の臣下にならざるをえないだろうと答えたと『信長公記』にはあります。

 斎藤道三の予言は当たったわけですが、相槌しか打てない信長を“うつけ”と見るか、相槌しか打てないのに、堂々と構えていられるのを“すごい”と見るか。確かに後者と考えると、普通のコミュ障じゃないな、という大物感はありますが……(笑)。

 思えば、「本能寺の変」において、織田信長が明智光秀の謀反を伝えられた時も、ワンセンテンスで「是非もなし」と言っただけですからね。「しかたない」というような意味ですが、史実の信長は『麒麟~』の信長とは正反対の“ワンセンテンスの人”であるとおわかりいただけると思います。

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