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「ご不快な思いをさせて申し訳ありません」…炎上企業はなぜ「ご不快構文」で火に油を注ぐのか? ジャーナリストに聞いてみた

「テンプレ謝罪文」で火に油を注がないために

——炎上してしまった場合、どのように対応することが望ましいのでしょうか。

治部:企業炎上の多くは法的には問題がないものですが、企業ブランドや倫理観が問われています。事前に取り下げの基準は決めておきましょう。「炎上したから取り下げる」という考え方ですと、その場しのぎの対処法になりがちです。大事なのは、その表現が人権や尊厳を傷つけていないか判断することです。

 謝罪としては、なぜそのようなことが起きたのか原因を明らかにすること、そして再発防止に取り組むことを示す必要があります。社内に炎上の原因を理解している人がいるはずなので、匿名アンケートなどで社内の声を聞いてください。広告が注目を集めるということは、それなりの企業規模なので、理解している人が社内にいるはずです。

 先日の『報道ステーション』(テレビ朝日系)のWebCMの炎上でも、内部にいる知人で何人も怒っている人がいて、的確な指摘をしていました。その人たちの声を反映していれば炎上は防げたはずです。社会問題を理解している人が担当者になっていないケースが少なくないことも、問題点の一つだと感じます。

——再発防止のために検証をしたいけれども、早く謝罪文を出さなければいけないという空気もありますよね。

治部:大企業であれば意思決定に時間がかかることもあるので、初動として批判的な意見について把握していることや、対応については検討中である旨を示すことも、一つの方法です。

 炎上後の対応として、すぐに取り下げをし、テンプレ謝罪文を掲載する流れが定着していますが、何が悪いのか理解されないまま形式的な対応をとることを私は評価できません。

 多くの企業が炎上しないか敏感になっているため、最近では、コンサルタントから「もし炎上したら対応は任せてください」言われているケースもあると聞きます。コンサルタントの言う通りにテンプレ謝罪文を出せば、早く鎮火するのかもしれませんが、それだと失敗体験を理解し、咀嚼するプロセスが飛ばされてしまいます。

——炎上後に典型的な対応をしなかった例はありますか。

治部:ユニ・チャームは、2017年5月に紙オムツ「ムーニー」のPRとして、新生児育児の大変さをリアルに描いた動画を制作しました。約2分間の動画の中、父親が登場したのはたったの約4秒間で、「ワンオペ育児を推奨しているのか」「過去を思い出して辛い」など否定的な意見がありました。一方で、「日本の現状を描いている」など肯定的な意見も見られました。ユニチャームはこの動画を削除することもなく、メディアの取材にも真摯に回答していることが印象的でした。

 もう一つは、2016年のP&Gの「ファブリーズVSくさや」のCMです。透明なケースの中にくさやを置き、その臭いを嗅いだ女性が「臭い」と顔を歪めるのですが、くさやの隣に「置き型ファブリーズ」を置くと、くさやの臭いを感じなくなるといったものでした。くさやを特産品としている伊豆諸島の人から苦情が寄せられたのですが、苦情の件数自体はそんなに多くなかったそうです。ただ、P&Gは「当事者を傷つける表現だった」と判断し、CMの放送を中止しました。炎上したから取り下げるのではなく、「誰かを傷つける表現だったか」を基準にしている点が印象に残っています。さらに2017年には、炎上をきっかけにして八丈島のくさや生産者とコラボ動画も出していて、炎上を次のチャンスに繋げていました。


治部れんげ(じぶ・れんげ)
ジャーナリスト。東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授。内閣府男女共同参画会議専門委員。東京都男女平等参画審議会委員。豊島区男女共同参画推進会議会長。一般財団法人女性労働協会評議員。Fulbrighter(2006-07)。著書に『炎上しない企業情報発信』(日本経済新聞社)、『「男女格差後進国」の衝撃』(小学館新書)。

 

雪代すみれ(フリーライター)

フリーライターです。企画・取材・執筆します。関心のあるジャンルは、ジェンダー/フェミニズム/社会心理学など

Twitter:@yukishiro7946

ゆきしろすみれ

最終更新:2021/05/12 11:00
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