スタンダップコメディを通して見えてくるアメリカの社会【18】

米で急増するアジア人差別、白人コメディアンが粗野な“ジョーク”で大炎上「無知の極み」発言でキャリアがパア?

文=Saku Yanagawa(サク・ヤナガワ)

米で急増するアジア人差別、白人コメディアンの粗野なジョークが大炎上「無知の極み」発言でキャリアがパアにの画像1
写真/GettyImagesより

 アジア人差別が急増し大きな社会問題となっているアメリカ国内で、今あるスタンダップコメディアンの「ジョーク」が大きな批判を呼んでいる。そのジョークを発したコメディアンの名前は、トニー・ヒンチクリフ。1984年生まれの“白人”だ。

 元々はロサンゼルスを中心に小規模の舞台に立っていた彼だったが、重鎮ジョー・ローガンに見出されると、前座としてツアーに同行する形で注目を集めだした。ジョー・ローガンは今もっとも影響力のあるコメディアンのひとりで、自身のポッドキャスト番組『ジョー・ローガン・エクスペリエンス』は毎月1億9000万ダウンロードを記録し、フォーブス誌による「2020年もっとも稼いだポッドキャスト・ホスト」に選出され、広告収入だけでも年間33億円にのぼると言われている。

 日本に比べはるかにポッドキャストの受容が進むアメリカにおいて、ジョー・ローガンは長年に渡りまさに「ポッドキャストの帝王」として君臨してきた。そんな彼のこの番組にもトニー・ヒンチクリフは弟分として度々ゲスト出演し、多くのコメディファンに認知されるようになった。

 粗野で傍若無人な芸風で、知性よりも勢いと過激さが売りのトニー。実際、彼自身がメインパーソナリティを務めるポッドキャスト番組『キル・トニー』にもそれらの「魅力」が集約されている。

 この『キル・トニー』はロサンゼルスの名門コメディクラブ、コメディストアで公開収録されており、会場に詰めかけたプロを志すアマチュアコメディアンの中からランダムに選ばれた数名が舞台に上がり1分間のネタを行い、それをトニーが批評していくという内容だ。ここでもトニーの歯に衣着せぬ辛口の批評で、コメディアンたちが圧倒され、タジタジになる姿がリスナーの人気を集め、2013年から実に500本ものエピソードが配信されてきた。

 これが1週間に200万ダウンロードという人気ぶりで、全米公開収録ツアーも敢行するなど、まさにトニー・ヒンチクリフの代名詞と言える番組だ。今年の1月に師匠ジョー・ローガンに追随する形で拠点をテキサス州オースティンに移したが、引き続きパラマウント・シアターで公開収録を続けてきた。

 そんなトニーの物議を醸す発言があったのは、5月6日にオースティンで行われたショーでのこと。アジア系アメリカ人のペン・ダンという地元コメディアンの後を受けステージに上がった彼は、満員の客席に向かってこう言った。

「会場のみんな、今一度この薄汚いチビの“チンク”(原文はfilthy little fucking chink)に大きな拍手を」

 そしてその後も中華レストランの店員に扮し、誇張されたアジアのアクセントを真似したスキットを挟んでみせた。

 それらのジョークに会場は笑いに包まれたが、その様子を録画していた観客がSNSに動画をアップすると瞬く間に拡散し、大きな批判を呼ぶことになった。

 ちなみに「チンク」とは19世紀ごろから用いられてきた主に中国系への侮蔑語であり、黒人に対する「Nワード」や、日本人に対する「ジャップ」と同様に決してその使用が許されるものではない。

 かつて「グーク」という、元々は韓国系に対する蔑称がアジア人を一括りにした差別用語として用いられたように、この「チンク」も中国系に限らずアジア人全般に対し広く投げかけられてきた歴史がある。

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