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「幻覚を放置すると心を壊す」負の反応も……マインドフルネスを仏教学、心理学、脳科学の研究者が共同で解明

文=飯田一史(いいだ・いちし)

仏典に書かれたマイナスの反応と対処法

――今回の本のタイトルにあるように「負の反応」――瞑想によって幻覚・妄覚が生じることなど、瞑想がもたらすネガティブな面も拾おうと考えたのは、なぜですか?

蓑輪 マインドフルネスの指導を日本に導入された赤坂クリニックの貝谷久宣先生とご縁があって一緒に講演会に出たときに、「マインドフルネスは危険だと言う人たちもいます。幻覚を見るようなマイナスの反応が生じる場合があるからです」と初めてうかがいました。しかし仏教では、古くから心身の観察を始めると過去の体験が強烈にフラッシュバックしたり幻が現れたりするという記録がいくつも残っており、対処法も体系的にまとめられています。なるほど、マインドフルネスの現場にいる方たちはそういうことはご存じないのか、これは仏教研究の蓄積を社会に還元する形で協力することに意味がありそうだ、と考えました。

――論集でも、瞑想修行中に古びていたはずの観音菩薩の図像が突然鮮明になってさまざまな姿に変身したとか、発光感覚や鋭い洞察力やあらゆる喜びで全身が満たされることもある、といった仏典での記述が紹介されていました。いわゆる変性意識状態に入ったときの対処法が、中世の日本でも初期仏典が書かれた時代でも説かれていたのか、という驚きがありました。

蓑輪 ただし、人間が抱える悩み・苦しみを超えていくことが重要なのであって、超常体験をすることが目的ではありません。そんなものを悟りと勘違いして履き違えると危ない方向に行ってしまう。ここは指導者の力量が問われる部分です。

 仏典の中には、ほかにも「やり方を間違え、幻覚をそのままにすると、心を壊す」――適切な処置ができずに気が触れた状態になってしまった例も伝えられています。「誰のどんな場合にでも効く」とは昔から考えられていなかった。近年、例えば統合失調症や重度のうつ病に対してマインドフルネス瞑想は有効とはいえないという論文も出ています。精神疾患に関しては、現代医学の治療法に頼らざるを得ない部分はもちろんあります。ただ、怒りっぽいとか欲望が強い、考えごとをしがちといった日常的な悩みに対しては、それなりの対処法が伝統的に伝えられています。

アメリカ軍隊の非常に危険な用法

――近代仏教研究者の碧海寿広氏の『科学化する仏教』には、催眠術やLSDによる神秘体験、超能力は「宗教体験や仏教が説いてきたものではないか」、そしてその体験は「科学的に語れるはずだ」と大まじめに期待されてきたという近現代の科学と仏教の交錯の歴史が書かれています。碧海さんはマインドフルネスも一時代か二時代下ったら70年代に一部でいわれた「密教修行で超能力開発ができる」みたいなものになる可能性もゼロではないと指摘していますが、今回のマインドフルネスはどう違うと思いますか?

蓑輪 その本に関しては存じませんが、おそらくそこでとらえられた仏教は「特別な能力を開発するために修行する」ものだったのではないでしょうか。しかし、マインドフルネスは日常生活の悩み、あるいはノイローゼやうつ症状のようなものを軽減することを目指すものです。ですから、目的が全然違います。確かに、サティ・パッターナ(念処)、すなわち「今この一瞬一瞬を、価値判断を入れることなく、ただ観ること」ですが、そのときに、「対象をひとつのものに限定してしっかり把握する」練習をしていると――これがサマタ(止)と呼ばれる観察方法になるのですが――、「神通力が出てくる」――幻覚が見えたりする――と初期仏教の頃から書かれています。だけれど、先ほど言ったようにそれは超えていかなければいけないもので、こだわってはいけないということも仏教では伝統的に継承されてきています。そこを履き違えて特別な能力を獲得することを目的に修行を採り入れた典型がオウム真理教であろうと想像します。

――論集に収録されている牟田季純さん(早稲田大学文学学術院次席研究員)の「マインドフルネスと戒の関係」では、倫理観が低いのにマインドフルネス特性が高いと、それが犯罪の引き金になっている可能性があるというタングレイや臨床心理士の砂田安秀氏らによるショッキングな調査・研究が紹介されていました。瞑想の技法的な部分だけでなく倫理・戒律にも目を向ける「第2世代マインドフルネス」登場の背景には、ただ「マインドフルな状態になればいい」わけではないという意識が高まってきたこともありますか?

蓑輪 「外界の刺激を受けても感情的な反応を起こさない」――例えば、銃の引き金を引いて人を殺しても心に傷を負わない訓練としてアメリカの軍隊などでマインドフルネス瞑想が用いられていると聞いたことがありますが、これは非常に危険な用法です。

 私たちは日常生活において外界から受けた刺激に対して感覚器官を通じて受けとめ、心の中で判断を下します。その了解がきっかけになって、次から次へといろんな働きが起きていく。物思いにふけってしまったりする。これを仏教では「戯論」(けろん)、あるいは初期仏典では「第2の矢」と呼んでいます。あることがきっかけになって次の反応を起こす、という連鎖が起こる。

 この戯論の働きがマイナス方向に膨らんで、それにとらわれてしまうことを解決するために、心の戯論の働きを抑えていこうとして使うのがマインドフルネス瞑想の本来のあり方です。それを伝えてきた仏教者たちは、日常生活の戒めを守りながら、そして他者を慈しみながら、心を整えていきました。そういう文脈を離れて犯罪や軍事のような特殊な目的のために使うのは、望ましくないという反省、警戒がマインドフルネス界隈にも広がってきたといえます。

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