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フィギュア&プラモに賭けた2市の現場担当者が語る「背水の陣」 【高知県南国市編】

高知県南国市が人気メーカー海洋堂を誘致! “宇宙船”は、シャッター商店街を救う“箱舟”となるか?

高知県南国市が人気メーカー海洋堂を誘致! 宇宙船は、シャッター商店街を救う箱舟となるか?の画像1
南国市にゴジラが上陸!という設定の電動ジオラマ。「海洋堂SpaceFactoryなんこく」内にて

 2020年から21年にかけて、フィギュアやプラモデルのいわゆる「ホビー」で、地方創生を打ち出した自治体が現れた。フィギュアのメーカーである海洋堂を誘致した高知県南国市と、プラモデル出荷量日本一の静岡県静岡市である。

 これらのジャンルは近年、オタクの趣味の代名詞でもあったといえよう。そんなオタク文化での町おこしといえば、アニメ作品の聖地巡礼がもはや定番化している。今回の“ホビー推し”はその派生形なのだろうか。そして、同時期にホビーでの地方創生をはかる自治体が出現したのは、オリンピックによるインバウンド需要を見越してのことだったのか。

 今回、現地関係者に話を聞いてみると、地方の切実な想いや子どもの教育・人材育成への課題が見えてきた。

▶後編「タミヤ、アオシマ、ハセガワが公立小学校にも乗り出した「静岡市プラモデル化計画」!プラモの衰退が、技術者の劣化を招くと危機感も

補助金なくしては叶わぬ夢、時期は早かったが……

 海洋堂といえば、食玩の動物や昆虫、エヴァンゲリオンやゴジラなどの精巧なフィギュアで知られている。「センム」の愛称で親しまれてきた専務(元社長)の宮脇修一氏をはじめ、造形師たちの狂気とも言えるディテールへのこだわりが、熱烈なファンを獲得しつづけてきた。本社は大阪府にある。

 高知県は、そんな宮脇センムの父であり、海洋堂の創始者・宮脇修氏の故郷である。ただし、そのエリアとしてはもっと山奥の四万十町だ。11年から四万十町の廃校を改修した「海洋堂ホビー館四万十」「海洋堂かっぱ館」を中心に活動を続けてきた。

 しかし海洋堂は2020年、そこから車で1時間半以上も離れた南国市に、別会社「海洋堂高知」を設立。同市が2021年3月にオープンさせた「海洋堂SpaceFactoryなんこく」へ、運営を担う指定管理業者として入った。

 縁のある四万十市とは遠く離れた南国市で、突如、新会社設立&施設という運びになった経緯はなんだろう?

 南国市商工観光課の上原邦曜さんは、「実はずいぶん前から計画はあったんですよ」と説明する。

「14年に、それまで中国でフィギュアの生産していた海洋堂さんが、日本での生産拠点を探していたのがキッカケです。そこで候補に挙がったのが、四万十町と比べて比較的交通の便がよく、雇用の確保も容易だった南国市。その中でも、中心市街地である南国市の後免町(ごめんまち)でした。実は当初は、公共施設をつくるなんて影も形もなかったのですが――、すぐに夢を見てしまうのが高知県民の性です。『あの海洋堂がウチに来るぞ!』と、南国市商工会や事業者、住民、行政職員が集まって協議し、『後免町将来像プラン』という地域振興計画を作り上げていました」

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イカ釣りが趣味の上原さん。お気に入りの海洋堂フィギュアは、「ミミイカ」

 実は、この盛り上がりの裏には、後免町のひっ迫した事情があった。昭和初期までは、水運産業や農業、農業用機械産業の街として栄えた一大繁華街。だが、交通事情の変化ともに古い町が空洞化してしまったのだ。毎年、商店街の通行人を数えているが、この10年間は変わらず1日たったの100人程度だったとか。

 このままでは、市の中心市街地が衰退しまう。そんな崖っぷちの状況に飛び込んできたのが、海洋堂の工場新設の話だったというわけだ。

「昼間の交流人口を増やしたくても、それを誘導するような魅力のある場所も、働く場所も、店もない。まずはカンフル剤として海洋堂さんのモノづくり施設を作って人を呼び、そこから周囲を活性化させていこうと考えました。状況は切迫していましたが、町には『ごめんの復興をあきらめない!』という熱い思いを持った方がたくさんいたせいか、不思議と悲壮感はあまりなかったように思いますね」

 コロナ禍でのオープンで心配された客入りだったが、来場者は約3カ月で3万人を超えた。当初の目標が果たせて一安心かと思いきや――、上原さんは「担当課としてはオープンまでにもっと時間をかけたかったんですけどね」とこぼす。ネックとなったのが、周辺の店舗開拓だ。

「はじめは、シャッター商店なら再利用もできるだろうと楽観していました。でも実際は、住宅と兼用の店が多く、居住スペースには人が住んでいます。店舗側にトイレがなかったり、建物の老朽化でリフォームも難しそうなところばかり。でも、補助金などが有利に使えるタイミングは“その時”しかありませんでした。商店街の受け入れ環境は万全とは言えませんでしたが……、我々にとってはここが最後のチャンスと思い踏み切りました。これは、どこの自治体にも共通するかもしれませんが、補助金のチカラがなければ施設はつくれなかったと思います」

フィギュアの生産現場が見られる日本唯一の公共施設

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まるで宇宙船のような「海洋堂SpaceFactoryなんこく」

SF映画「2001年宇宙の旅」に登場するディスカバリー号や、「スター・ウォーズ」の軍艦などを外観のコンセプトにしたという「海洋堂SpaceFactoryなんこく」。目玉は、何といっても1階。ソフビ(ソフトビニール製フィギュア)の生産現場を一般公開していることだろう。

海洋堂では量産の場合、通常は金型の元となる「原型」をデザインし、その後の工程は中国の工場に任せているという。そこを海洋堂SpaceFactoryなんこくでは、原型から製品製造までを将来的には一括して扱えるようにするという。海洋堂商品としては、初の試みだ。

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1階通路の窓からは、工場が覗ける。左側は宮脇センムのプラモデルコレクションと海洋堂歴代のフィギュアたち
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フィギュアの成形をつくる金型

 館内に展示されたフィギュアには、アニメや特撮のキャラクターもある。しかしそれは一部分。多くが身近な生き物やミリタリーもの、歴史上の登場人物など、実在する物がモチーフだ。だからこそ老若男女を問わず、造形師の観察眼やデフォルメの妙を肌で感じることができるのだろう。

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生物造形のカリスマ、松村しのぶ氏のラフスケッチも展示

 2階には、スタッフが指導によってジオラマやフィギュアの色塗りができる工房と、地域の産業を紹介するコーナー。3Dプリンターなどの先端機械もレンタルしている。3階は現在未公開だが、思う存分ものづくりに打ち込めるように休憩室も準備中だ。

 かつて約40年前にも、海洋堂には「造形狂の部屋」という工房があった。美少女フィギュア造形の第一人者とされるBOME氏など、才能ある模型好きたちが泊り込みで制作に励んだ秘密基地のような場所だった。このスペースファクトリーは、その再来を思わせる。

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