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女性が霊山を登れないのは伝統か差別か?「女人禁制」の“正史”と批判派・擁護派の不毛な議論

文=飯田一史(いいだ・いちし)

 各地に残る「女人禁制」とされる場所や、祭りへの女性参加を制限する慣行に対して、マスコミやフェミニストは「女性差別だ」「人権侵害だ」と批判し、風習を守る側は「伝統だ」と応じるも旗色は悪い――。今後、この問題を考える上で議論の前提となる歴史的な経緯や出典を網羅的に整理した、慶應義塾大学名誉教授の鈴木正崇氏による『女人禁制の人類学 相撲・穢れ・ジェンダー』(法蔵館)が刊行された。同氏に、「女人禁制」をめぐる変遷と批判派・擁護派それぞれの問題点について訊いた。

女性が霊山を登れないのは伝統か差別か?「女人禁制」の正史と批判派・擁護派の不毛な議論の画像1
鈴木正崇著『女人禁制の人類学 相撲・穢れ・ジェンダー』(法蔵館)

「生理の血が大地を穢す」と説く経典の影響

――こんにち「女人禁制」や「女人結界」とされるものができていった歴史的な経緯から教えてください。

鈴木 ひとくちに「女人禁制」といっても由来はそれぞれ異なります。山の「女人禁制」に限定しますと、地元では「女人結界」と考えていることが多いです。聖地への女性の立ち入りを制限するという考え方ですね。その形成過程では山岳信仰と融合した仏教の影響が大きかったと言えます。ただし、仏教伝来以前から、男女を問わず山の頂上には登りませんでした。人々が生活の中で作り上げてきた習俗として、山中には「ここまでが人間の世界である」と考える境界があり、それを越えた神聖な場所の山頂へ行くのは禁忌とされていました。

――今でも通夜や葬式の後、家に入る前に塩を振りかけないといけないみたいな感覚がありますが、広く言えばそれと同じような「境界」のひとつですよね。

鈴木 では、誰がそういう境界を乗り越えたのか。修行者です。奈良時代後半から大峯山(おおみねさん)などの山頂で祭祀遺跡が見つかっていて、山頂で仏教の儀礼をしていた痕跡があります。つまり、その頃にはあえて禁忌を犯して山に登るという行為が発生していたのです。その記憶が日本全国に残る開山伝承として残ったと考えられます。私の推論ですが、当初は男女問わずの「禁足地」や「不入の地」への「境界」が、仏教の影響で「結界」と読み替えられ、「女人結界」になっていったと考えられます。

――仏教の影響というと?

鈴木 ひとつは戒律の問題です。女性の修行場には男性は入れないし、男性の修行場には女性を入れない。仏教の五戒のひとつ「不邪淫戒(ふじゃいんかい)」に由来するものです。しかし、男性中心社会になっていくと、「女性の修行場に男性が」の意識は薄れて「男性の修行場に女性が入ってはいけない」に集約されていく。こうした考え方が、山の「女人結界」を説明する仏教側の論理として展開されました。
 仏教の教説・教義自体にも、現代の視点から見ると女性差別的な文言が入ってはいます。ただし、確かに女性を劣位に置く見方はありますが、「女性は罪深い存在である」などと記されてはいません。

――では、仏教というより、日本社会が男性中心になっていった影響ということですか?

鈴木 それだけとも言えないです。15世紀に中国から偽経(偽の経典)の「血盆経(けつぼんきょう)」が伝来して以降に大きく変わりました。「血盆経」は短い経典ですが、「女性は罪深い」といった女性差別的な内容を含み、「女性の生理の血が大地を穢す」「女性しか堕ちない血の池地獄がある」などと説きます。「血盆経」の教説が民衆の間に広がって、人々の女性観を変えていったのです。

――なるほど、入ってきた段階では偽の経典だとはわからないので、「仏教の教え」として受容されたと。

鈴木 ただし、室町時代には女性自らが山に登ることは少なくて、山の女人結界や女人禁制の禁忌を守ることは暗黙の了解でした。差別というよりも昔からのしきたりとして維持されてきたのです。江戸時代中期以降、山岳信仰に基づく「講」集団による山岳登拝が男性中心に行われるようになると、改めて山の女人禁制や女人結界が禁忌として意識されるようになり、女性をどう扱うかという問題が浮上して、結界や禁忌が強化されるようになったのではないかと思われます。

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