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関東大震災「朝鮮人虐殺」を起こした自警団とは――ラムザイヤーも信じたフェイニクニュースの真相

そんな理由でためらいなく人を殺せるのか

――渡辺さんの唱える「自警団メンバーの在郷軍人が朝鮮半島で激しい抵抗に遭ってきた経験が、関東大震災時の流言・虐殺につながった」論は、個人的には納得感は高い説だと感じます。一方で、虐殺正当化論者の「感情」は切り崩せないのではという気がします。「半島で反乱を目の当たりにしてきたのだから、日本で起こってもおかしくなかった」云々と。そう言われたら渡辺さんはどう返しますか。

渡辺 「起こってもおかしくなかった」とは思いませんが、その当時、そのように思った人が大勢いたことは確かなことです。
 しかし、冷静に考えてあり得ることでしょうか。個人が法を犯すのではなく、朝鮮人が数百人とか数千人という集団で襲ってくるとして怖れたのです。関東地方に散在していた朝鮮人を合わせても1万数千人程度とされています。交通も通信も杜絶した震災直後の環境で、集団で武器を手に襲ってくるなど冷静に考えればあり得ないことです。
 ところが、その当時、多くの日本人はあり得ると思ったのです。それがなぜだったのかが今日ではわかりにくくなっていて、そこにこそ、問題の根源が潜んでいるのではないでしょうか。今回出した本の「おわりに」の冒頭に、私には2つの疑問があったと記しましたが、問題の根源は何なのかという問いかけです。自分がその立場にいたらと想定して、どうするだろうと考えてみることが大切なのではないでしょうか。
 そんな理由で私はためらうことなく人を殺せるだろうか。そんなことを繰り返し問いかけてきました。どうしても納得できないままに自分なりの答えを探し続け、気づくと2冊の本がまとまっていたように思えます。

――冷静に事実を積み重ねた報道や研究が出されても、そもそも強い先入観を持つ人の見方を覆すのは難しいとSNSを見ていて感じますが、変わるためには何が必要でしょうか。

渡辺 問題の根源がどこにあるのかを見つめ直すことが必要なのではないでしょうか。
 日本も韓国も、そしり合うための相手の情報は十分に備えたのではないでしょうか。正しいと信じて疑うことのない自分の考えが、どのようにして成り立っているのか、その出自と来歴を問い返すことです。日韓ともに、そろそろ互いに自分の足元を見つめ直してもいい段階を迎えているのではないでしょうか。 
 私自身が、今回調べてみて初めて気づいたことがばかりでした。私の知らなかった歴史がそこにはあったのです。

渡辺延志(わたなべ・のぶゆき)

1955年生まれ。ジャーナリスト。2018年まで朝日新聞社に記者として勤務し、歴史を主な取材対象とし、青森市の三内丸山遺跡の出現、中国・西安における遣唐使の墓誌の発見、千葉市の加曽利貝塚の再評価などの報道を手がけた。そのほかの著書に『虚妄の三国同盟――発掘・日米開戦前夜外交秘史』(岩波書店)、『軍事機密費――GHQ特命捜査ファイル』(岩波書店)、『神奈川の記憶』(有隣新書)など。

マーケティング的視点と批評的観点からウェブカルチャーや出版産業、子どもの本について取材&調査して解説・分析。単著『マンガ雑誌は死んだ。で、どうなるの?』(星海社新書)、『ウェブ小説の衝撃』(筑摩書房)など。「Yahoo!個人」「リアルサウンドブック」「現代ビジネス」「新文化」などに寄稿。単行本の聞き書き構成やコンサル業も。

いいだいちし

最終更新:2021/10/14 18:00
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