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『ハロウィンKILLS』のブギーマンは何を語りかけているのか? 時代を映し出す最新ホラー映画4作品を一挙レビュー

人種、ジェンダーにおける差別問題を扱った映画『キャンディマン』『アンテベラム』

 ソフィア・タカールという女性監督が『暗闇にベルが鳴る』(1974)のリメイク映画、『ブラック・クリスマス』(2020)を制作した。同作を観てみると……オリジナル版とは異なった内容である。男性至上主義カルト集団と女子大生が戦う作品になっていたのだ。

 これは、オリジナル版でオリヴィア・ハッセー演じるジェスが学生でありながら妊娠したことで、自分の将来のために中絶しようとするエピソードを、フェミニズムを用いて再解釈したもの。

 リメイク版は、女性は家庭で子どもを育てるといった、いわゆる「女性らしくあるべき」という思想をもった男性至上主義者たちが、フェミニズムを訴える女性を殺害していくという筋書き。これは、現代の男性社会の問題点はもとより、ソフィア・タカール自身が女性監督としてどう映画業界で扱われてきたかを反映させているのだ。それは、前作の『ブラック・ビューティー』(2020)でも色濃く描かれていた。

 オリジナル版が制作された1974年は、人工中絶がまだまだ一般的ではなかった(現在も禁止とされる国や州、宗教は多い)。しかし、そういったことを直接的に問題提起することができず、ホラー映画としての一側面が強調されていたのだ。2006年に一度『ファイナルデッドコール 暗闇にベルが鳴る』としてリメイクされているが、こちらはフェミニズム要素はほとんどない。

 ホラー映画全体においても、社会問題を取り入れたが時代的に表には出せず、あくまでメタファーとして描くという風潮があった。しかし近年は、それを堂々と表に出せるようになったということだろう。

 ジェンダー問題に関しては、さまざまなホラー映画で血まみれになりながらもサバイブする“強い”女性像がそれを表していたように思えるが、人種問題に関してはよりデリケートな問題としても扱われていた。

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『キャンディマン』© 2020 Universal Pictures and MGM Pictures. All Rights Reserved. CANDYMAN TM MGM. ALL RIGHTS RESERVED.

 1992年の『キャンディマン』は、初めて黒人がホラー映画のアイコンとなる殺人鬼として登場した作品とされている。大きな括りとするならば、ブラックスプロイテーション時代に世界初の黒人ドラキュラを登場させた『吸血鬼ブラキュラ』(1973)といった作品も制作されてはいるが、観客層が固定されていない作品においては、初めてだったといえるだろう。

『キャンディマン』は、実際にシカゴにある「カブリーニ=グリーン」という貧困層や売人などが住む団地が舞台となっており、富裕層によって土地を奪われないため、白人が立ち寄らないために拡散されていた都市伝説「キャンディマン」を、大学院生のヘレン・ライルが調査する物語として描いていた。

 90年代としてはかなり攻めた内容であったものの、白人女性であるヘレンの目線で描かれることで、本質として描きたかった人種差別、貧困問題という題材は薄れてしまっていたように感じられる。

 そこでリメイクであり、続編でもある『キャンディマン』(2021)では、そのオリジナル版が白人女性主人公のホラー映画という印象になってしまっていたという課題を、メタ的視点として取り入れるのと同時に、黒人の視点から改めて描くことで、白人によって消費されてしまう黒人文化や、なぜ「キャンディマン」という存在が黒人にとって必要だったのかを描いていた。

 Amazonプライムビデオで配信されている『ブラック・アズ・ナイト』(2021)も、「キャンディマン」にヒントを得ている作品である。こちらは比較的ティーン向けではあるが、そういった作品でも社会問題を取り込むのが当たり前になってきている。

 一方、2021年11月5日から公開中の『アンテベラム』では「白人至上主義者」の恐怖を描いていた。

『ハロウィンKILLS』のブギーマンは何を語りかけているのか? 時代を映し出す最新ホラー映画4作品を一挙レビューの画像5
『アンテベラム』©2020 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.

 現代においても表に出さないだけで、差別意識が潜在的に根付いてしまっている者もいれば、保守的な土地では、差別的な態度をあからさまに出す者もいる。

「奴隷制度」が当たり前とされていた頃は、差別が堂々と行われていた時代。黒人は人間ではなく、資産として管理していたこともあって、物を扱う感覚で「支配欲」「所有欲」といったものを黒人奴隷に対して見出していたこともあり、「時代」が作り出してしまった屈折した概念でもある。

 その(潜在的な)差別意識を受け継いでしまった者は、現代にもいる。そのことを、かつての時代に生きる黒人女性の視点を通して考える作品であった。

 人種差別を訴える歌詞を取り入れるなど、活動家としても知られるジャネール・モネイが本人に通じる役を演じていることからは、本人の経験が役作りに活かされているようにも感じられる。

『キャンディマン』

製作・脚本:ジョーダン・ピール
監督:ニア・ダコスタ 
出演:ヤーヤ・アブドゥル=マティーン2世、テヨナ・パリス、ヴァネッサ・ウィリアムズ、コールマン・ドミンゴ
配給:東宝東和
© 2020 Universal Pictures and MGM Pictures. All Rights
Reserved. CANDYMAN TM MGM. ALL RIGHTS RESERVED.


『アンテベラム』

脚本・監督:ジェラルド・ブッシュ、クリストファー・レンツ
出演:ジャネール・モネイ、エリック・ラング、ジェナ・マローン、ジャック・ヒューストン、カーシー・クレモンズ、ガボレイ・シディベ
配給:キノフィルムズ
提供:木下グループ
©2020 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.

 

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