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ほぼ全員無名の役者たちの熱気を喰らう映画『エッシャー通りの赤いポスト』

人生で主役になる時はきっと来る

ほぼ全員無名の役者たちの熱気を喰らう映画『エッシャー通りの赤いポスト』の画像2
C)2021「エッシャー通りの赤いポスト」製作委員会

 そんな製作経緯や作品構造からして特殊な『エッシャー通りの赤いポスト』だが、本編の内容そのものもぶっ飛んでいる。何しろキャラクターの全員が全員とも「濃い」。​​

 園監督の投影と思われる鬼才のカリスマ映画監督「小林」、彼をカルト宗教的に崇拝する「小林監督心中クラブ」のメンバー、俳優志望の夫を亡くした若き未亡人「切子」、殺気立った訳あり女「安子」など、まあクセが強すぎることこの上ない。

 思えば、俳優のオーディション、もっと言えば普遍的に世の中にある面接は、個性や来歴をアピールするという、その人の「人生」が詰まった場であるため、それを見るだけで面白いというのは新たな発見だった。趣味の悪い言い方をすれば奇人変人の博覧会のようでもあるのだが、そんな彼らそれぞれにしっかりと共感できるエピソードが用意されているので、ずっと興味深く観られるのだ。

 加えて、オーディションの様子をただ流すだけでなく、時系列を入れ替えてドラマティックな人生模様の交錯を描いたり、脚本作りに難航する監督と元恋人の関係性も並行して提示されたりと、エンターテインメントとして楽しく観られる工夫もふんだんにあった。

 そのおかげもあって「51人全員主役」という触れ込みは伊達ではない。それぞれにしっかりとした役割が与えられているし、観た人それぞれが自己投影できる「推しキャラ」もできることだろう。

 そのことが、作品の主題と密接に絡んでいるということも重要だった。それは端的に言って「誰の人生においても主役になる時がきっとある」ということだ。

 人生において自分が価値のない、取るに足らない存在の「脇役」だと思ってしまうことは、多くの人にとって身に覚えがあることではないか。

 しかも映画には、往々にして「主役」という確固たる存在がいるため、それ値しないキャラおよび役者を、容赦なくそこから遠ざけてしまう、脇役であることを残酷に突きつける媒体であるとも言える。劇中で「映画にエキストラとしてちょっとだけ出演していることを自慢するおじさん」がいることも、その切なさを相対的に際立たせるようでもあった。

 だが、この『エッシャー通りの赤いポスト』で紡がれる物語は、そんな「誰もが主役になれるわけじゃない」という映画や人生の通り一辺倒の言説への、一種の「カウンター」だ。

 何しろ、劇中では映画のオーディションに落ちてしまった人も、人生の脇役に甘んじた人も、映画のエキストラにすぎないように思えた人も、「なにくそ!」と言わんばかりに、自分を主張し、自己肯定をして、そして人生を謳歌するような行動に打って出るのだから。

 その姿に勇気が湧くし、はたまた情けなくなると同時に共感もできたりする、そんな人間模様がありありと表れていて、同時に人間賛歌に満ちた内容だったのだ。

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