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あのアーティストの知られざる魅力を探る TOMCの<ALT View>#7

Mr.Children『DISCOVERY』バンドの成熟と“もっと大きな”ミスチル像の発見

『OKコンピューター』と“真逆”な『DISCOVERY』のサウンド

Mr.Children『DISCOVERY』バンドの成熟と“もっと大きな”ミスチル像の発見の画像2
Radiohead『OK Computer』

 『OKコンピューター』と『DISCOVERY』は共に、多くの楽曲でバンドサウンドを基調にしたものだが、この2作におけるプロデューサーの立場、および最終的なサウンドの印象は正反対だ。

 『OKコンピューター』は、プロデューサーのナイジェル・ゴッドリッチがバンドと長期間に渡りスタジオで再構築を積み重ねて作られた、音の配置ひとつひとつにまで気を遣ったような緻密なサウンドを持つ。ゴッドリッチがミキサー卓の様々なパラメータを操作し、トム・ヨークがそれを見守りながら適宜ジャッジを下していった……という制作風景にまつわる逸話もあるように、本作品の完成度におけるゴッドリッチの貢献は大きく、彼が「レディオヘッドの6人目のメンバー」と評される契機となった。ギタリストのエド・オブライエンは「本作のおよそ80%はライブ形式で録音した」「オーバーダブは不自然な感じがして嫌いだった」と制作当時を振り返っているが、その証言がにわかに信じがたいほど、ポストプロダクションに時間をかけた本作のサウンドは細部まで研ぎ澄まされ、均整が取れている。

 何より、『OKコンピューター』はバンドサウンド主体であるにもかかわらず、「Airbag」でのチェロを思わせるギタートーンや、サンプラーのAKAI S3000を通じて往時のブレイクビーツさながらのザラつきを得たドラムが象徴するように、そのサウンドは、トリップホップをはじめとした様々なジャンルとのクロスオーバーを感じさせる。これこそ、本作がロック・ミュージック史上における重要作と目される最たる所以の一つだろう。

 一方、Mr.Childrenの最初期には作曲者としても多数クレジットされ、「Mr.Childrenの5人目のメンバー」のようなポジションであったプロデューサー・小林武史の存在感は、バンドサウンド主体の『DISCOVERY』では大きく後退したように映る。それを証明するように、のちに桜井は、『DISCOVERY』『Q』の制作時期を振り返って「小林さんが“アルバムどうしようか”というところから入っていって作り込むのとは違う、新しい良さを見つけられた気になった」という言葉を残している。実際、自宅で完成形に近いデモを制作することが可能となった桜井は、その音源をメンバーに共有するのみならず、山形で4人のみでのセッションまで敢行していたという。小林との共同作業に入るより前に、あらかじめバンドの中で大まかなゴールが描けていた可能性は十分にあるだろう。

 こうした経緯もあってか、『OKコンピューター』と比べると、『DISCOVERY』はバンド4人のプレイの主張を可能な限りそのまま閉じ込めた、過度の装飾・ポストプロダクションを控えた造りに聴こえる。音像も、『OKコンピューター』の明瞭な高域~くっきりした各パートの分離とは対照的な、くぐもった音が塊として迫ってくるような無骨さが印象的だ。各楽器の個性はしっかり表れているものの、『深海』のようにダイナミズムを広く取った“生のままの”サウンドというよりは、音圧を上げることで、細かなニュアンスと引き換えに荒々しさを選んだ印象が強い。『OKコンピューター』のように楽曲ごとに音色を使い分け、ロック以外の様々な領域とのクロスオーバーを演出するようなある種のカラフルさはほとんど無いと言っていいだろう。Mr.Childrenの「Prism」には、「Let Down」のアルペジオと電子ピアノの絡みが生む仄かな温かみの感覚は希薄であり、しばしば“暗い”“沈鬱”とも評されるレディオヘッドより数段悲壮な印象を喚起させる。

 『OKコンピューター』と『DISCOVERY』のサウンド面の差異について、もう少し掘り下げていこう。それぞれに携わったマスタリング・エンジニアの志向や仕事ぶりを見ていくと、より違いが浮き彫りになる。

 レディオヘッド『OKコンピューター』のマスタリングは、デビュー以来の付き合いであるクリス・ブレアが担当している。アビーロード・スタジオに所属するブレアは60年代末から活躍するベテランで、『OKコンピューター』がリリースされた1997年頃は、他にもスティングの新譜やスピリチュアライズドのライブ盤、またピーター・ガブリエル時代のジェネシスの再発盤などを手がけている。それらの仕事から感じ取れるブレアの志向は、緻密な情報量を適切に聴き手に届ける、均整の取れた手堅さだ。

 Mr.Children『DISCOVERY』のマスタリングは、前作『BOLERO』に引き続きLAのオーシャンビュー・デジタル・マスタリングが担当。この当時、ニール・ヤングやNOFXの新譜のほか、トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズ~ジミ・ヘンドリックスの編集盤、ジョニ・ミッチェルの再発盤などでクレジットを確認できる彼らの仕事の持ち味は、生音の存在感を押し出した太く力強いサウンドデザインだ。録音時点での旨味を可能な限り残した『深海』のマスタリングを手がけたのは『Atomic Heart』(‘94)と同じジョージ・マリノだったが、彼の仕事と比べると、『BOLERO』『DISCOVERY』でのMr.Childrenは意図的に荒々しくハードなサウンドを目指していたことが見えてくる。

  それまでのMr.Childrenが参照し続けてきた70年代以前のヴィンテージ・ロックと、彼らが新たに関心を見せ始めた、90年代の先端を行くオルタナティヴ・ロック。これらをまさにリアルタイムで融合させていたのが当時のニール・ヤングであり、そのサウンドを誰よりも知っていたのがオーシャンビュー・デジタル・マスタリングである。このオーシャンビュー・デジタル・マスタリングとMr.Childrenの化学反応こそ、『DISCOVERY』のサウンドが放つ魅力のすべてだ。

 このようにマスタリングの観点まで考慮しても、緻密な『OKコンピューター』と荒々しい『DISCOVERY』では、そのサウンドの方向性はやはり真逆と言えるものであり、当時のMr.Childrenがレディオヘッドの音楽性をそのままトレースしていたとは決して言い難い。もっとも、このあたりは先述の通り、田原と鈴木がレディオヘッドのライブステージ――緻密なスタジオ録音をバンドメンバー5人のプレイで豪快にアップデートしていくさまを直接体験したことも、少なからず影響した可能性もあるだろう。Mr.Childrenのそれまでのキャリアは、ある意味丁寧なプロデュースのもとで育まれ、望む・望まないにかかわらず、多くのイメージを背負ってきた部分が大きかったとも言える。そうしたなかで彼らが求めた“ハードさ”というのは、これまで築かれてきたキャリアとイメージをバンド4人だけの力で更新するべく選び取った武器だったのかもしれない。

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