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【田澤健一郎/体育会系LGBTQ】

男子フィギュアスケーターがゲイを隠すために同調した“誤解”

社会に広がったLGBTQという言葉。ただし、今も昔もスポーツ全般には“マッチョ”なイメージがつきまとい、その世界においてしばしば“男らしさ”が美徳とされてきた。では、“当事者”のアスリートたちは自らのセクシュアリティとどのように向き合っているのか――。(月刊サイゾー2022年1・2月号より転載)

男子フィギュアスケーターがゲイを隠すために同調した誤解の画像1
(写真/佐藤将希)

 フィギュアスケートは、日本が世界トップを争うスポーツ。冬季北京五輪でも男女とも当たり前のようにメダルが期待されている。

 優美な衣装を身にまとった選手たちが氷上で軽やかに舞う。そんな印象ゆえに、ゴリゴリの「体育会」から離れた競技に感じる人も多いだろう。

「ところが、フィギュアも内実はバリバリの体育会って感じなんですよ。ザ・年功序列みたいな文化は色濃く残っているし、僕が中高生の頃は体罰もバリバリ。ちょっと上の世代はヤンキーみたいなタイプも結構いました」と語るのは緑川冬馬(仮名)。現在29歳、かつてはフィギュアスケート選手として国際大会にも出場する実力者だったが、限界を感じて大学卒業を機に引退。現在は、競技の第一線からは退き、一般の会社員として働いている。

「だから、男子のフィギュア選手というと『オカマとかオネエとか多いんじゃない?』みたいな印象を持たれがちだと思いますけど、そんなことはない。ほかのスポーツと一緒ですよ」
 その実情は冬馬が一番よく知っている。彼はゲイとして男子フィギュア界を生き抜いてきたからだ。

ゲイだと自覚しても悩むことはなかった

「フィギュアを始めたのは中学1年生。ちょっと遅いスタートでした。というのも、小さい頃から体を動かすのは好きだけど、やりたいと強く思う競技がなくて、ずっと特定のスポーツをしていなかったから。そんなときテレビでトリノ五輪(2006年)のフィギュアスケートを見て、『僕がやりたいのはこれだ!』と感じたんです」

 フィギュアに惹かれたのは、芸術性の高さだった。

「スポーツも好きだけど、アーティスティックなものも大好き。フィギュアは両方満たされるスポーツだったんですよ」

 好きこそものの上手なれ。運良く近所にあったスケートリンクのクラブに所属した冬馬の上達スピードは早かった。元来、運動好きであったように、身体能力も高かったのであろう。周囲の選手よりスタートは遅かったが、あっという間に全国を狙える選手に成長する。

 自身がゲイであることに気づいたのも、ちょうどこの頃だった。

「自覚したときのことは、はっきり憶えています。中学1年生でした。それくらいの年頃って、性に興味を持ち始めたり、好きな異性ができたりする時期ですよね。女子と付き合い始める友達もいましたが、僕は女子より男子に目がいって、クラスメイトの男子が好きになってしまった。そのとき『どうして?』と思うよりも『こっちだ!』と感じたんです。そしたら過去のいろいろな違和感がつながったんですよ」

 冬馬は幼い頃から男友達より女の子のほうが「絡みやすかった」という。

「例えば小学生の頃、女の子の間で大きな筆箱をギャルっぽくデコって、匂いのするものとか、いろいろなペンを入れるのが流行っていたんですけど、僕も男子と遊ぶより、それと同じことをするのが楽しかった。仮面ライダーや戦隊モノも好きだったけど、周囲のようにヒーローに憧れるのではなく、俳優さんにキュンキュンしていた感じ」

「つながった」とは、そうした自分の趣向に納得がいったということである。ゲイだと気づくと同時にそれを認めたくないと悩む人もいるが、冬馬はそうではなかった。

「つながってスッキリした感覚がうれしかったのか、特に深くは悩みませんでしたね。さすがにカミングアウトするまでは振り切れなかったので、男友達にいろいろ合わせることは多かったですけど」

「男子ノリ」にも表面上は合わせて、みんなと盛り上がることを楽しむ。「もともと前向きな性格」という彼は、そんなふうに何事もポジティブにとらえることにした。恋愛に関しては、ある意味、フィギュアが代替物となった。

「中学だと、恋愛の話題で盛り上がるのは学校内や部活内が多いじゃないですか。僕は学校の部活に入らずに、学外のクラブでフィギュアをしていたので、結果的にそういった話題とは一線を引いた場所にいて、あまり気になりませんでした。フィギュアのクラブもロッカールームで『あの子がかわいい』みたいな話はしますけど、その程度で、選手は競技が第一。僕自身、本気で五輪を目指していたので、遊んでいるヒマもない。ただでさえ僕はスタートが遅く経験不足ですから、練習をサボれば誰かに抜かれるだけ」

 実際、クラブのレベルは高かった。冬馬とともに練習に励んでいた選手の中には、のちの日本代表選手が複数いる環境。

「先生の指導も厳しくて、ときにはキツく叱られることもありました。だけど叱られるのは、思うように演技できずイライラしてふてくされるなど、練習態度や競技に向かう姿勢が悪いときだけ。自分が悪いとはわかっていたから、心底イヤにはならなかった。まあ、当時は本当にストイックだったんですよ。だから、彼氏が欲しいと思うこともなかった。学校にちょっと好きな男子はいたけど、たまに話ができれば十分で。ただ、高3のときかな? いつかは子どもが欲しいから、試しに女の子と付き合おうとしたんです。あるフィギュアの女子選手から告白されたのをきっかけに。でも、付き合っているうちに『やっぱり違う』と感じることが多くて。ああ、これは無理だなとあきらめました。今は、将来的にパートナーと結婚して、養子を取るか代理母出産で子どもを授かる方法を考えています」

 高校卒業後は3人の男性と交際した。その中にフィギュア選手はいなかったのか。
「いなかったですね。正直なところフィギュア選手にタイプの人があまりいなくて。僕のタイプはぐっさん(山口智充)や照英さんなんです」

 確かにその2人とも、現在の一般的な男子フィギュア選手のイメージとは重なりにくい。
 ただ、冬馬の話を聞くと、それが男子フィギュアの「課題」にもつながっている気がした。

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