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バカリズム「僕じゃなくてもいい」フリップ芸の大いなる“矛盾” とR-1での“一貫性”

バカリズム「自分がトツギーノをやってるときに、矛盾を感じたんですよ」

 6日に決勝戦を迎えた『R-1グランプリ2022』(フジテレビ系)。R-1といえば、昨年から芸歴10年までの出場制限が設けられるなど改革がなされた。ただ、蓋を開けてみると決勝の進行はドタバタで進行。そんな番組に対しては、放送中から批判が沸き起こったことも記憶に新しい。

 で、今年は敗者復活もふくめ8組で争われた決勝戦だが、放送前から話題になっていたのは、やはりバカリズムが審査員を務めたことだろう。これまで第4回(2006年)、第5回(2007年)、第7回(2009年)、第8回(2010年)と決勝でネタを4回披露してきたバカリズム。優勝候補と毎回いわれながらも優勝を逃してきた彼は、2010年を最後にR-1に出場しなくなっていた。

 R-1から距離をおいてきたように見えるバカリズムは、今回どんな審査をするのか。否が応でも注目度が高まっていたわけだけれど、当日のバカリズムの審査は、最低点が84点、最高点が91点という、近年のお笑いの賞レースでは相対的に低い点数での採点となった。

 もちろん、絶対評価ではなく相対評価なのだろうから、基準点がいくら低くても問題ではない。あとになるほど点数が詰まって差をつけづらくなることを考えたら、低めにつけておいたほうが合理的とも考えられる。にもかかわらず近年は高めの得点が出がちなのは、番組の盛り上がりを考えてか、採点される側の心情に配慮してか、それともテレビを通したときの見え方を気にしてか(それはつまり、低い点数をつけられる人を見ることへの、視聴者の耐性がなくなったのか)。

 そんななかにあって、バカリズムの点数の低さはやはり印象的だ。芸人たちも観客も高く評価するピンネタ、しかもさまざまなパターンのネタをひとりでつくり、ひとりで演じ続けてきた彼だからこそ、と考えてしまいたくもなる。

 加えて、フリップ芸に対する点数の低さも特徴的だ。ファーストステージをトップで通過したZAZYのネタ(正確にはフリップ芸ではなくモニターを使ったスライド芸なのかもしれないけれど)に対しても、彼は下から3番目の点数をつけている。ZAZYより低い点数をつけた2つのネタも、いずれも(広い意味での)フリップ芸だ。

 かつて、バカリズムは自身がかつてやっていた代表作を反省的に振り返りながら、フリップ芸について次のように語っていた。要は、しばしば「誰がやっても同じ」になってしまう点に、フリップ芸の“矛盾”を感じとっているようだ。

「自分がトツギーノをやってるときに、矛盾を感じたんですよ。もともとトツギーノ自体が、映像ネタだったんですよ。その映像ネタをなんとか舞台上でやって笑ってもらいたいもんだから、イーゼル置いて。しかも、フリップを見せたいから、俺、黒い衣装着てるんですよ。目立たないように。僕じゃなくてもいいじゃないですか、トツギーノなんて。(アンタッチャブルの)山崎さんがやったほうが、よっぽどあんなの面白く聞こえるし。っていうのがあって、1人でコントやってる人に比べて楽してる感じがあったから」(『お笑い実力刃』テレビ朝日系、2021年6月9日)

 ネタを他ならぬ本人がやることの意味。それを重視する彼のスタンスは、フリップ芸を拡張したようなkento fukayaのネタに対する「見せ方も凝ってて面白かったんですけど、どうしても舞台上の本人以外の要素が、あまりにも多すぎたかな」とのコメントに、あるいは、二面性のある人間をその演技力で演じきった吉住にこの日の彼の最高点をつけた採点に、よくあらわれているのかもしれない。

 ネタの制限が「ピン芸であること」だけのR-1では、漫談、コント、歌ネタ、ギャグ、モノマネ、フリップ芸など、多種多様なネタが披露される。そのため、一貫した審査をすることが難しいと言われてきた。結局、審査員の感覚的な好き嫌いになってしまうのではないか、とされてきた。

 そんななか、自身の一貫した審査基準を持ち込んだという点で、バカリズムの審査は画期的だったように思う。そして、どういう基準であれ納得できる審査がくりかえされていくと、結果として賞レースとしての“格”があがることにもつながるのだろう。ただ、それは同時に、R-1で評価されるネタの傾向と対策が定まってくることも意味しているのかもしれないけれど。

 そしてもちろん、彼の審査基準を勝手に読み取っているのはこちらの側で、当人は「たまたまそうなっただけ」と言いそうではあるのだけれど。

飲用てれび(テレビウォッチャー)

関西在住のテレビウォッチャー。

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いんようてれび

最終更新:2022/03/15 18:00
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