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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.681

華やかなファストファッション業界の裏側を描く映画『メイド・イン・バングラデシュ』

搾取工場で働く女性たちの驚くべき給与額

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工場に勤める男性幹部たちはパワハラし放題、不倫してもお咎めなしだった

 朝から晩までミシンを動かし続けるバングラデシュの女性たちの給料が、6000円~8000円だと聞いたら、あなたは「まぁまぁ、もらっているじゃないか」と思うだろう。だが、その給与額が日給ではなく、月給だと知ったら驚くのではないだろうか。ラナ・プラザ崩落事故によって基本給は上がったものの、バングラデシュの物価上昇はそれを上回っている。

 メーカー側が指定した納品日に間に合わせるために、彼女たちは残業や休日出勤を強いられるが、残業代や休日手当てが支払われないことも多い。それでも彼女たちは文句を言うことすらできない。人口の多いバングラデシュでは、仕事を求めている若い女性たちが他にもたくさんいるからだ。工場側に逆らうと、解雇の対象となる。

 バングラデシュの女性たちの多くは従順な性格で、小さい頃から縫い物を習い、手先が器用なことでも知られている。でも、どれだけ懸命に働いても、彼女たちの生活は豊かにならない。シムの夫は無職状態で、シムが働くことで家賃も食費も賄っている。そのくせ、妻のシムが外で働いていることを、夫は面白く思っていない。工場では男たちが工場長などの幹部を務め、いつも高圧的な態度だ。工員は30代になる頃には体を壊し、若い女性が替わりに働くことになる。現実世界に存在するエクスペンダブルズ(消耗品軍団)、それがシムたち女性労働者だった。

 日々の仕事に追われていたシムだが、インテリ階級の女性ナシマ・アパ(シャハナ・ゴスワミ)と出会い、人生が大きく変わる。「取材させてくれない? 謝礼は払うから」とナシマに声を掛けられるシム。ナシマは労働者権利団体の一員だった。シムは職場の内情を話すことで、自分たちは搾取工場で働かされているのだと知る。本来、労働者は労働法で守られており、「労働組合」があれば、今の状況を変えることができるのだとも教えられた。

 学歴のないシムは、労働法や労働組合と聞いて最初は及び腰だったが、残業代が払ってもらえないサイテーな現状を変えなくてはどうにもならない。サリー・フィールドがアカデミー賞主演女優賞を受賞した『ノーマ・レイ』(79)の女性紡績工のように、シムも労働者の権利についてゼロから学び始める。

 シムが他の女性工員たちを誘い、組合を作ろうとしていることを知って、男たちはいい顔をしない。工場側は露骨に圧力を掛け、夫も「組合なんてやめとけ」と煙たがる。組合に参加することに消極的な女性も少なくない。周囲に反対されればされるほど、シムの闘志に火が点く。ようやく労務省に署名を提出するシムと仲間たちだったが、ここからはさらに高いハードルが待ち構えていた。

 労務省に提出した組合参加者の名簿は、工場の経営者に筒抜けだった。政治家は工場経営を兼ねていることが多く、労働者たちが自立し、権利を主張しようとする動きを潰そうとする。もはやシムが闘う相手は、ひとつの企業ではなく、バングラデシュという国そのものだった。女性が屋内で過ごすことを美徳とする南アジアの古い価値観「パルダ」が続く社会に風穴を開けるために、シムは立ち上がる。荒ぶるシムは、伝統的な黒い「ヒジャブ」を脱ぎ捨て、黒髪をなびかせて労務省へと乗り込む。

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