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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.683

連続殺人鬼との遭遇が退屈な人生を激変させた! 白石和彌監督作『死刑にいたる病』

非常に危うい、犯罪者と非犯罪者とを隔てるボーダー

連続殺人鬼との遭遇が退屈な人生を激変させた! 白石和彌監督作『死刑にいたる病』の画像2=
事件を調べる雅也(岡田健史)は、母親(中山美穂)の過去も知ることに

 拘置所で死刑囚と面会した主人公が、死刑囚の冤罪を証明しようと奔走する。映画『死刑にいたる病』は、白石和彌監督のブレイク作となった『凶悪』(13)とほぼ同じ筋立てとなっている。大きな違いがあるとすれば、『凶悪』は「上申書殺人事件」を題材にした実録犯罪ものだったが、『死刑にいたる病』はフィクションであり、殺人鬼役がコワモテなピエール瀧からソフトな雰囲気の阿部サダヲに変わったという点だろう。実録犯罪映画『凶悪』で成功を収め、その後ヒットメーカーとしての実績を積んだ白石監督は、より柔軟な演出で冷血な殺人鬼とイノセントな若者との交流劇を再び描いている。

 残酷な手口で世間を震撼させた榛村だが、雅也には昔から優しかった。誰もが恐れる殺人鬼から頼られていることが、気弱な雅也に自信を与える。雅也が調べていくうちに、24人目の被害者にはストーカーがいたこと、遺体が見つかった現場には顔に大きな痣のある金山(岩田剛典)が姿を見せていたことが分かる。事件の真相に近づくことで、自分は特別な人間なんだという自負心を取り戻す雅也だった。

 はたして、24人目の殺人事件の真犯人は誰なのか? 雅也の母・衿子と榛村はどんな関係だったのか? 死刑囚である榛村は、雅也をどん底人生から救うことになるのか? 善と悪、真実と偽り、生と死……。さまざまなグレーゾーンがグラデーション状態で、雅也の前に広がっている。

 愛情と憎しみは紙一重の違いであるように、ボーダー上で揺れ動くものがこの世界にはとても多い。性衝動と暴力衝動とのボーダーも、ひどく曖昧だ。榛村との面会を重ねていくうちに、雅也と榛村との心の距離も近づいていく。映画後半には、2人を隔てていたはずの面会室のアクリル板まで消滅してしまう。犯罪者と非犯罪者との境界も、非常に危ういものであることを感じさせる。

 榛村に再会したことで、雅也は別人のように変わっていく。不思議な魅力を持つ榛村は、ファムファタール(魔性の女)ならぬ、オムファタール(魔性の男)である。だが、雅也に限らずとも、誰しも榛村的な破壊衝動や破滅願望を秘めているのではないだろうか。榛村の場合は不幸な生い立ちによって、それらのマイナス因子が目覚めてしまった。平穏な環境で育った者は、マイナス因子が運よく目覚めなかっただけなのかもしれない。

 きれいごとだけの人生では面白くない。誰にも気づかれないところで、こっそりと悪いことを楽しみたい。欲望のスイッチを押してみたくなる。普段は理性で抑え込んでいるが、生きた人間がそんな歪んだ願望を隠し持っていてもおかしくないように感じる。

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