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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.690

大河ドキュメンタリー『スープとイデオロギー』 ホームビデオが映した母の秘密とは?

大河ドキュメンタリー『スープとイデオロギー』 ホームビデオが映した母の秘密とは?の画像1
ヤン ヨンヒ監督の母親(オモニ)を主人公にした『スープとイデオロギー』

 ホームビデオには、ひとつの家族の何気ない日常のひとコマが記録されている。家族同士の屈託のないやりとりが、思わず笑いを誘う。そして、そんな家族のひとコマが連なっていくことで、家族の歴史や家族が生きてきた社会の歴史も同時に浮かび上がってくる。ヤン ヨンヒ監督の11年ぶりとなるドキュメンタリー映画『スープとイデオロギー』は、彼女の家族を記録した3本目の作品だ。日本、韓国、そして北朝鮮を繋ぐ、壮大な大河ドキュメンタリーに仕上がっている。

 1964年大阪府生まれのヤン ヨンヒ監督は、在日コリアン二世である自身の生い立ちや、大阪で「朝鮮総連」の幹部を務める父親=アポジ、父親を献身的に支える母親=オモニ、そして1970年代に帰国事業で北朝鮮に渡った3人の兄たちとの交流を記録した『ディア・ピョンヤン』(05)で監督デビューを果たした。平壌で暮らす兄たちの生活ぶりを、北朝鮮の許可なく映画の中で紹介したため、ヨンヒ監督は北朝鮮から入国禁止処分を受けている。

 ドキュメンタリー映画の第2弾『愛しきソナ』(09)では、それまでに撮っていた映像素材を改めて編集し、平壌にいるかわいい姪っ子・ソナが成長する様子が描かれた。また、末娘のヨンヒ監督のことを溺愛してきたアポジが、2009年に亡くなったことも語られている。

 安藤サクラ、井浦新、ヤン・イクチュン、宮崎美子らが出演した劇映画デビュー作『かぞくのくに』(12)を挟み、ドキュメンタリー映画第3弾となるこの新作『スープとイデオロギー』では、大阪の実家でひとり暮らしを続けるオモニにフォーカスが絞られる。

 オモニは平壌にいる3人の息子たちに、せっせと食料品や日用雑貨を送り続ける。オモニからの仕送りがなければ、3人の息子とその家族は物資の乏しい北朝鮮で暮らしていくことは難しかったに違いない。食堂経営を辞めた後は、借金をしてまでも仕送りを続けるオモニ。底知れぬ愛情の持ち主であることが分かる。

 だが、ヨンヒ監督は大きな疑問を抱えていた。高齢になった身で、いつまで兄たちに仕送りを続けるつもりなのか。そもそも、そんなに愛している息子たちを、なぜ北朝鮮に送り出したのか。大阪総連の幹部だったアポジと同様に、オモニが韓国を嫌い、北朝鮮を支持していることが、平和な日本で生まれ育った娘のヨンヒ監督には理解できなかった。実家には金日成・金正日親子の肖像画が飾ってある。

 いちばん身近な存在であり、それゆえに聞きづらかった家族の封印されていた過去が本作で明かされることになる。なかなか踏み込むことができなかった母親の内面に、ヨンヒ監督はビデオカメラを手に迫る。生活感のあるホームビデオの中で、母親の若き日の秘密が物語られていく。(1/3 P2はこちら

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