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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.690

大河ドキュメンタリー『スープとイデオロギー』 ホームビデオが映した母の秘密とは?

文=長野辰次(ながの・たつじ)

スープを囲み、新しい家族になっていく3人

大河ドキュメンタリー『スープとイデオロギー』 ホームビデオが映した母の秘密とは?の画像3
事件から70年を迎え、ヨンヒ監督、オモニ、カオルさんは済州島へ向かう

 あいさつが終わり、オモニに勧められて、丸鶏のスープを口にする荒井カオルさん。その表情がパッと明るくなる。オモニの人柄を感じさせる味だったのだろう。スープに舌鼓を打ち、汗だくで鶏肉を食べ終えた頃には、すっかり打ち解けた顔になっている。それは、新しい家族が増えた瞬間だった。

 やがてオモニの認知症は進行することになるが、仕事の合間を縫って、ヨンヒ監督とカオルさんが大阪の実家に通う姿が記録されていく。チョゴリを着て記念写真を撮る3人、オモニに習ったレシピで丸鶏のスープづくりに挑戦するカオルさん、そして事件から70周年を迎えた済州島へ一緒に向かうことに……。楽しい体験だけでなく、つらい過去も分け合っていく。3人がひとつの家族になっていく過程が、愛おしく映し出されていく。

 ヨンヒ監督作品の新しい登場キャラクターとなったカオルさんは、本作のゼネラルプロデューサーも務めている。子どものいないカオルさんとヨンヒ監督にとって、この映画は子ども同然の存在だと言えるだろう。この作品はヨンヒ監督とカオルさんの非常にパーソナルなホームビデオだ。だが、そこには新しい歴史を刻んでいくことになる夫婦の物語だけでなく、ヨンヒ監督を育てたオモニとアポジ、そして兄たちの存在や極東の戦後史も克明に記録されている。

 この映画を観終わった人は、おそらくヨンヒ監督一家だけの特別な物語だとは感じないのではないだろうか。在日コリアンであるかどうかに関係なく、どの家族にもその家族だけの特別な歴史、語られることのなかった秘密があるはずだ。「もっと家族と、いろんな話をしておけばよかった」。田舎に残した母親の手料理を食べることができなくなった今、そう思わざるをえない。家族との思い出のひとつひとつが、大切なものに感じられる。

 

『スープとイデオロギー』
監督・脚本・ナレーション/ヤン ヨンヒ 撮影監督/加藤孝信 編集・プロデューサー/ベクホ・ジェイジェイ 音楽監督/チョ・ヨンウク アニメーション原画/こしだミカ アニメーション衣装デザイン/美馬佐安子 エグゼクティブ・プロデューサー/荒井カオル
配給/東風 6月11日(土)より渋谷ユーロスペース、ポレポレ東中野、大阪・シネマート心斎橋、第七藝術劇場ほか全国順次公開
©PLACE TO BE, Yang Yonghi
soupandideology.jp

長野辰次(ながの・たつじ)

長野辰次(ながの・たつじ)

フリーライター。著書に『バックステージヒーローズ』『パンドラ映画館 美女と楽園』など。共著に『世界のカルト監督列伝』『仰天カルト・ムービー100 PART2』ほか。

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最終更新:2022/06/09 19:00
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