トップページへ
日刊サイゾー|エンタメ・お笑い・ドラマ・社会の最新ニュース
  • facebook
  • x
  • feed
日刊サイゾー トップ > 連載・コラム  > 「素の志村けん」とものまねの現在地

バカ殿や変なおじさんじゃない「素の志村けん」に沈黙、爆笑、驚嘆するものまねの現在地

川島明「『情熱大陸』の位置」

 さて、『お笑いオムニバスGP』の2億4千万のものまねメドレーでは、そっくりすぎて笑ってしまう衝撃のものまねも披露された。そのものまねを披露したのはレッツゴーよしまさ。この企画初登場である。というか、世間的にほとんど知られていない芸人だろう。私もはじめて認知した。

 彼がものまねしたのはザ・ドリフターズの全員。いかりや長介をはじめ、加藤茶、志村けん、高木ブー、仲本工事といったメンバー、さらには途中で脱退した荒井注や、付き人だったすわ親治まで。それを全部1人でやるから驚きだ。

 さらにその衝撃に輪をかけたのは、「素の志村けん」のマネである。変なおじさんやバカ殿様、ひとみ婆さんといった彼のコントキャラをまねする芸人は多い。武田鉄矢や出川哲朗といったものまね芸人がこぞってネタにするものまね界の共有財産、共通インフラを構成する1人といっていいかもしれない。レッツゴーよしまさも、曲の前半では志村のコントのキャラをまねしていた。

 しかし、中盤で彼が披露したのは、そんなコントキャラではない素の志村けん。「わりと、胸の花びら震わせて、コント考えるっていうのは多いですね」と『2億4千万の瞳』のフレーズをもじりながら始まったそのものまねに、会場は一瞬静まり返る。その後に沸き起こった大きな笑い声。それに続く「すげー」という声。沈黙→爆笑→驚嘆という流れがインパクトの大きさを物語る。

 素の志村けんの衝撃は、見る側に立ち止まって考える隙を与えず次々とものまねする「2億4千万のものまねメドレー」の形式だからこそ、より大きかった面はあるだろう。世間的にほぼ知られていない芸人によるほぼ知られていないネタ、という部分も大きい。

 が、それにしても、ものまねとしてのそっくり度の高さと、そこがあったかという視点の新しさ。そのネタは、私たちの記憶の底に沈んでいた、コントとは打って変わって落ち着いたトーンで話す「素の志村けん」とそのまま重なる。そのぴったりとハマる爽快感。ものまね芸というジャンルのクオリティの高さとはこういうものだ、と改めて画面に刻むようなものまねだった。

 さて、ぴったりハマるといえば23日の『トゲアリトゲナシトゲトゲ』(テレビ朝日系)。福田麻貴(3時のヒロイン)、加納(Aマッソ)、サーヤ(ラランド)といった3人がお届けするバラエティ番組だが、この日はスペシャル版として、川島明(麒麟)をゲストに迎えたロケ企画が行われていた。もちろん、普通のロケではない。事前に決めておいたツッコミのフレーズを川島から引き出そうという番組恒例のツッコミビンゴ企画である。

 で、3人にツッコむ川島のワードのぴったり具合が改めてすごい。店のショーケースに過剰に群がる3人に「ウォーキング・デッドくらい群がってるやん」。肉屋の陳列棚に張り付く加納に「『フレンドパーク』の一発目の競技か」。口数すくなく団子を黙々と食べ続けるサーヤに「家出してたの保護されたんか」などなど。

 さらに、カメラに接近して話し始めたサーヤに「『情熱大陸』の位置やぞ」。いや、これは文字だけでは伝わりにくくてぜひ実際の画面を見ていただきたいところだ。本当に「『情熱大陸』の位置」だから。画面のなかにいながらにして、画面の外からの見え方を把握し、さらに別の番組の画面と結びつけて例える。ってどんな例えだ。すごい。

 近すぎず遠すぎず。目の前の事象からちょうどいいぐらいに離れた例えのチョイス。しかも、じっくり考えて出したワードではなく、リアルタイムで状況が進行しているなかでの即興ワードである。

 運動神経悪い芸人の、この絶対音感ならぬ絶対距離感。言うなれば、時速100キロで走るゴミ箱に時速100キロで走りながらゴミを投げ入れているかのような。ってどんな例えだ。ひどい。

 

飲用てれび(テレビウォッチャー)

関西在住のテレビウォッチャー。

サイト:記事一覧

Twitter:@inyou_te

いんようてれび

最終更新:2023/02/27 18:57
12
ページ上部へ戻る

配給映画