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竹内涼真『六本木クラス』有終の美…“成功”の理由は「若手キャスト×大映ドラマ」?

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『六本木クラス』TELASA配信ページより

 竹内涼真が主演するテレビ朝日系木曜ドラマ『六本木クラス』が29日に最終回を迎え、世帯視聴率は10.7%(ビデオリサーチ調べ、関東地区/以下同)を記録。同ドラマ最高記録を更新し、有終の美を飾った。

 2020年に話題になった韓国の人気ドラマ『梨泰院クラス』のリメイクということもあって、放送前から「失敗しそう」との声が相次いだ本作。特に、かつてテレビ朝日で放送された『24 JAPAN』の二の舞になるのではとの懸念も聞かれた。

 だが結果的に、テレビ朝日として成功作に終わったと言っていいだろう。今期の民放ゴールデン・プライム帯ドラマは、世帯視聴率の全話平均が5%以下となる4作もあり、8%超えとなったのはわずか5作。『六本木クラス』は全話平均9.34%で今期3位の好成績だった。

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 今期は、テレビ朝日で放送したGP帯ドラマ3作すべてが全話平均視聴率の上位4位以内に入っており、視聴率面では他局を圧倒した。だが、一方で改めて露呈したのが配信の弱さ。シリーズものである東山紀之主演の『刑事7人』(水曜21時)と上川隆也主演の『遺留捜査』(木曜20時)はいずれも視聴率では今期2位、今期4位だったが、TVerの見逃し配信ではまったく振るわず、TVer総合ランキングには一瞬ランクインする程度。多くの深夜ドラマにすら勝てないほど、見逃し配信需要には乏しかった。TVer人気が非常に高い作品が多く、視聴率も悪くないTBSに比べ、あまりにアンバランスなのだ。

 そもそもTVer人気はTBSドラマが強い傾向にあり、次いで日本テレビとフジテレビという印象だが、一方でテレビ朝日は非常に弱い。TVerが期ごとに発表している番組再⽣数ランキングではこの傾向がわかりやすい。2021年1-3月期は、TBS、日本テレビ、フジテレビ/カンテレのドラマが上位に並ぶなか、テレビ朝日は9位となった木曜ドラマ『にじいろカルテ』のみがトップ10入り。同4-6月期では、テレビ東京の深夜ドラマにも破れ、トップ10入りを逃しており、やはり木曜ドラマ『桜の塔』がなんとか11位に食い込んだ。同7-9月期もトップ10入りしたのは『緊急取調室』の9位、同10-12月期も『ドクターX~外科医・大門未知子~』の8位のみと、他局が複数作品をトップ10入りさせているのに対し、テレビ朝日は木曜ドラマが辛うじてトップ10入りするかどうかという状況なのだ。

テレ朝ドラマとしては異例の配信人気

 しかし『六本木クラス』だけは違った。夏ドラマでは『石子と羽男ーそんなコトで訴えます?ー』(TBS系)が圧倒的にTVerで支持されたが、それに次ぐ人気を誇ったのが『六本木クラス』だったのだ。

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 その配信人気はNetflixでも象徴的だった。『六本木クラス』はテレビ朝日のドラマとしては初めて放送直後からNetflixでも配信されているが、放送開始当初は、むしろオリジナルの『梨泰院クラス』のほうが圧倒的に見られるという逆転現象が起こってしまったものの、徐々に人気が高まり、9月に入ってからは『六本木クラス』のほうが上回る形に。新エピソード配信直後には国内デイリーランキングで1位を取るようにもなった。

 米倉涼子主演の『ドクターX』シリーズの大ヒット以降、高視聴率を記録して当然という空気のあるテレビ朝日木曜ドラマにおいて、『六本木クラス』の視聴率がいまひとつなのは否めない。だが、先に挙げたように、TVer人気では、木曜ドラマはテレビ朝日の他の枠の作品に比べればまだ見られているものの、明らかに他局に差を付けられている。その中で『六本木クラス』の配信人気が突出して強かったのは特筆すべき事実であり、中高年層に支えられていると言われるテレビ朝日のGP帯ドラマにおいて異例の成功を収めたと言えるのだ。

 では一体なぜ『六本木クラス』はこのような成功を収めたのか。

 視聴率面では、やはり木曜ドラマ枠の固定ファンをある程度味方につけることができたことが大きいだろう。『六本木クラス』は第3話で7%にまで落ち込んだが、その後回復していき、第9話では同作最高となる10.2%まで上げ、以降も9.9%を維持し、最終回(第13話)で10.7%と自己最高を更新した。テレビ朝日のドラマはコア層(13~49歳)の個人視聴率が悪く、世帯視聴率の高さを支えているのは65歳以上、特に女性の高齢者だとされている。『六本木クラス』も個人視聴率では若年層は不振だったが、50歳以上では好調だった。

 “中高年ウケ”をした背景には、「大映ドラマっぽい」と言われる作風があるのではないだろうか。昨今流行する韓流ドラマは、振り幅の大きいストーリー展開、わかりやすい敵役、大げさな芝居など、80年代に一世を風靡した大映ドラマとの共通点を挙げられることも多い。『梨泰院クラス』もわかりやすい復讐劇、極端なキャラクター、ドロドロの展開などで「大映ドラマっぽい」と指摘する向きもあったが、“原作”にかなり忠実に沿った『六本木クラス』についても、「昔の大映ドラマみたいで好き」「こりゃ大映ドラマだなと思いながら観てます」「大映ドラマにしか見えん」という声はかなり多かった。一定以上の年齢層には懐かしさと共におもしろがられたのではないだろうか。

 そして、この“大映ドラマ”を竹内涼真や平手友梨奈、鈴鹿央士といった現代の若者たちが演じることで、彼らのファン層を中心に、幅広い世代が配信で視聴したのではないかと考えられる。『六本木クラス』は全13話、1話につき実際の内容は40~50分と、ショート動画に慣れた若者からすればボリュームが大きいが、「梨泰院クラスのダイジェスト」の声もあった『六本木クラス』は、オリジナルのエピソードを大胆に省いていった結果、かなりテンポよく進む印象だった。展開があまりに速いため、時に唐突感があったり、背景にある設定が語られなかったり、余韻に欠ける面はあったが、このサクサク感が配信との親和性を高めたのではないだろうか。“前置き”となる序盤はやや退屈だが、主人公の逆転劇が本格化する第5話から話がおもしろくなる印象で、このあたりから視聴率が再び上向いたのは、その影響かもしれない。

 俳優陣の演技もよかった。原作者からも太鼓判を押された平手友梨奈は確かにハマり役だったと言えるし、香川照之も「大映ドラマ的」な敵役を見事に体現した。中尾明慶、矢本悠馬、光石研、緒形直人、倍賞美津子ら脇を固める面子にも安定感があった。もっとも印象的だったのは、器の小さな小悪党から、さまざまなカルマを背負った悪役を熱演した早乙女太一だろう。無論、それは主演・竹内涼真あってこそでもある。まっすぐで熱く、やや頭が固い主人公を好演した。TBS日曜劇場の主役という大役を務めた『テセウスの船』でも見事に前評判を覆したが、『六本木クラス』でも同様の成功を収めたことは彼のキャリアにおいても大きな実績となったのではないだろうか。

 『六本木クラス』はオリジナルに忠実すぎるあたりが賛否を呼んだが、最終回の脚色は個人的には美点だったと思う。オリジナルでは、「キスをしたこともない」はずの主人公が最後に手慣れた様子で情熱的なキスをするあたりに視聴者からツッコミも起こったが、『六本木クラス』であえてキスシーンを設けなかったのは、恋愛に不慣れで、自分の気持ちに気付かされた瞬間に「バカなこと言いなさんな!」(第11話)と慌てふためいていた主人公らしく、自然だったように思う。オリジナルと違い、最後に敵役が土下座するシーンを『六本木クラス』では主人公が「今のあなたが土下座をしたところで何の価値もありませんよ」と途中で静止するのもよかった。香川照之の“土下座芸”を期待していた視聴者を「土下座キャンセル」と驚かせつつ、最終回冒頭で主人公が土下座した際に言われた「くだらない土下座」という言葉を突き返す意味もあり、ローカライズ版としておもしろい変化の付け方だったように思う。

 秋の木曜ドラマ『ザ・トラベルナース』は、『ドクターX』や『七人の秘書』などの中園ミホ脚本によるオリジナル作ということで、またいつもの木曜ドラマに戻ってしまいそうだが、視聴率もそこそこ取り、配信で成功するという、昨今のドラマにおける理想的な例となった『六本木クラス』はテレビ朝日にとって重要な成功体験となったかもしれない。

新城優征(ライター)

ドラマ・映画好きの男性ライター。俳優インタビュー、Netflix配信の海外ドラマの取材経験などもあり。

しんじょうゆうせい

最終更新:2022/09/30 13:41
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