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歴史エッセイスト・堀江宏樹の「大河ドラマ」勝手に放送講義

『鎌倉殿』の愛されキャラとは違う和田義盛 実朝とも親しい“やり手の政治家”ぶりが仇に?

──歴史エッセイスト・堀江宏樹が国民的番組・NHK「大河ドラマ」(など)に登場した人や事件をテーマに、ドラマと史実の交差点を探るべく自由勝手に考察していく! 前回はコチラ

『鎌倉殿』の愛されキャラとは違う和田義盛 実朝とも親しい“やり手の政治家”ぶりが仇に?の画像1
源実朝(柿澤勇人)と和田義盛(横田栄司)|ドラマ公式サイトより

 『鎌倉殿の13人』第39回「穏やかな一日」は、承元2年(1208年)から建暦元年(1211年)までの4年間を1日に凝縮して表現するという面白い趣向でした。いつもウィスパーボイスでナレーションしている長澤まさみさんが、御所の女房役で登場したのには驚かされましたね。あの『源氏物語』も、宮中に仕え、貴人のあれこれを密かに見聞きしている女房の語り口調で書かれているといわれたりもするので、そういう構図を『鎌倉殿』でも採用したのでしょうか。長澤さんはナレーションについて、三谷幸喜さんから「隣の部屋からささやいているような距離感で」とオーダーされたそうですが、女房役で登場した姿を見て納得してしまいました。

 納得といえば、世継ぎを周囲から求められた源実朝(柿澤勇人さん)が、婉曲な表現だったにせよ、自分は女性を愛することができないと御台所の千世(加藤小夏さん)に告白をしたことで、泰時(坂口健太郎さん)を見つめ続けていた彼の眼差しの意味が、われわれ視聴者にもはっきりしました。千世はそんな実朝を受け入れ、抱きしめましたが、彼女が「上皇さまのいとこ」の姫君という身分にふさわしい高潔な女性であることが窺えた一方、この夫婦がこれから直面する運命を考えると切なくなりました。

 ドラマの中には名前だけですが、実朝の歌の師として藤原定家が登場し、実朝の歌の才能が劇中でも描かれ始めました。「大海の 磯もとどろに 寄する浪 破れて砕けて 裂けて散るかも」は実朝の代表歌とする声も多い歌ですが、『鎌倉殿』では暗澹たる気持ちを抱えた実朝の心の叫びのように取り扱われていたのは興味深いことです。伝統的な「王朝文学」にはなかった、大海原の荒々しいパワーに着目した実朝の表現の巧みさに注目するのが、この「大海の~」の歌の通常の解釈でしょうから。もちろん、「春霞 たつたの山の桜花 おぼつかなきを 知る人のなさ」という秘めた恋の歌を泰時に渡していたのに、「鎌倉殿は(自分に送る歌を)間違えておられます」と突き返されたことに傷心した実朝が「大海の~」の歌を代わりに渡したとするドラマの解釈もアリだとは思いますが。

 第39回は、北条義時(小栗旬さん)の専横ぶりが増していく数々のシーンも印象的でした。高い役職である国司は北条家の面々が独占し、守護の役職も北条家が有利になるよう、任期を限定させるなど、制度の改悪を義時が計画するという場面もありました。

 御家人たちからの反対が予想されるので「だからこそ真っ先に賛成してほしい」などと虫の良いことを義時から頼まれた三浦義村(山本耕史さん)が、その場ではうなずきながらも、一人になった後は扇を投げ捨て、怒りをあらわにした場面については、次回以降、義時と義村の関係に変化が見られることへの伏線となるかもしれません。

 かつては友人同士だった義時と義村ですが、今や義村は、義時から都合の良い道具のように扱われてしまっています。それに義時からは「私を裏切るものなら裏切ってみろ。お前なんて潰してやる」といわんばかりの態度を感じさせられた気もします。義村はそれでも義時に反抗できなくなっているのですが……。

 さて、今回のコラムでは、鎌倉幕府の歴史上、最大規模の内乱となった「和田合戦」の中心人物・和田義盛についてお話しようと思います。最近の『鎌倉殿』はシリアスな内容が続いていますが、横田栄司さんが演じる、不器用ながらお調子者で、愛されキャラである和田義盛と、その妻である巴(秋元才加さん)、そして実朝の団らんのシーンはドラマ視聴者にとっては貴重な“息抜き”の場でした。

 しかし、史実から見る限り、和田義盛という武士はだいぶ頭が切れる「やり手」の武士だったと思われます。

 義盛は当初、三浦一族の分家にあたる和田家の当主に過ぎませんでしたが、源頼朝にうまく取り入ることに成功し、侍所別当の座を手にいれています。侍所別当とは鎌倉幕府の軍事・警察を担った組織であり、そのトップに君臨していたのが和田義盛という人物で、つまり義盛の権勢は、三浦一族の長である三浦義村をも超えていました。当時の京都の公家の日記では、三浦一族のトップは三浦義村ではなく、和田義盛であるという認識まであったくらいです。

 『鎌倉殿』の義盛にそうした政治家色はありませんが、史実ではやり手だった義盛を、三浦本家の義村は「目の上のたんこぶ」だと苦々しく思っていたのではと想像するのは容易いですし、それが「和田合戦」で三浦義村が和田義盛に見せた裏切りの遠因にもなったと考えることもできるでしょう。別の見方をすれば、和田義盛から権力を奪い取りたい北条義時が、三浦家の内紛に巧みに介入したのが「和田合戦」の真実だった……といえるかもしれません。(1/2 P2はこちら

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