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ニューヨーク5番街の老舗百貨店にカジノ構想…隣は大聖堂、物議醸す「業種転換」

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サックス・フィフス・アベニューの正面(2023年1月撮影)

 東京・銀座の百貨店にカジノができるとなれば、声を上げて驚く人も少なくないだろう。現在の銀座でそのような話題は耳にしないが、米ニューヨークにあった。マンハッタン中心部、5番街の老舗百貨店にカジノを建設する計画が浮上した。売り場の一部をつぶして上層の3フロアをモナコにあるような高級カジノに「業種転換」させるという。

 この百貨店は1924年創業のサックス・フィフス・アベニュー。「5番街の中の5番街」といわれるロックフェラーセンターの真向かいにある。ニューヨークの5番街といえば、ティファニーやグッチ、ルイヴィトン、フェラガモ、カルティエ、アルマーニなど世界的な高級ブランド店が軒を連ねる。東京でいえば銀座だ。米国人だけでなく世界各地から買い物客が押しかける。

 カジノ構想はニューヨークタイムズが報じ、衝撃となってニューヨーカーの話題をさらった。百貨店の建物は1部12階建てで、計画では9階以上の3フロア、広さは約1万8580平方メートルをカードゲームやルーレットなどを楽しめるカジノにする。バーやレストランも併設し、最高級の「大人の社交場」にする考えだ。

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カジノ構想が浮上したサックス・フィフス・アベニューの9階売り場(2023年1月撮影)

 現在は9階までが売り場で、10階はオフィススペース、11階はルーフトップという構造だが、最近は特売品を売ることが多くなった9階フロアを売り場から切り離す。5thアベニュー沿いのデパートの入口とは別に、49thストリート側にカジノ専用の出入口を設け、赤い絨毯を敷き詰める。

 ニューヨークタイムズは、サックス・フィフス・アベニューを所有するハドソンズ・ベイ社が作成した完成予想図を「1960年代のスタイリッシュなスパイ映画を彷彿とさせるシャンデリアの下に座る上品に着こなした都会人や、戦前の石造りの建物の屋上での月明りに照らされた夜会が描かれている」と表現した。

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サックス・フィフス・アベニューの売り場から見えるロックフェラーセンター(2023年1月撮影)

 サックス・フィフス・アベニューの店内からは、向かいのロックフェラーセンターが一望できる。ロックフェラーセンターといえば、クリスマスシーズンに巨大なクリスマスツリーを設置することで知られている。カジノ設置が実現すれば、この場所は世界で最も有名なクリスマスツリーを見ながらカジノに興じることができる、世界的にも特別な場所になる。

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クリスマスシーズンはサックス・フィフス・アベニューの建物がライトアップされる(2019年11月撮影)

 ハドソンズ・ベイ社がサックス・フィフス・アベニューの旗艦店の一部をカジノにしようとしている背景には、百貨店の衰退がある。米国では2018年10月に、かつて小売業で全米を席巻したシアーズが経営破綻した。20年8月には米国最古の百貨店、ロード・アンド・テイラー(1826年創業)が破綻し、看板を降ろした。

 日本でも1月31日に東京・渋谷の東急本店が56年の歴史に幕を降ろした。2月1日には、そごう・西武がセブン&アイ・ホールディングスから米国の投資ファンドに売却される。消費者の価値観の多様化、オンライン販売の普及が百貨店の存在を脅かしているのは日米ともに変わらない。

 サックス・フィフス・アベニューは「5番街のど真ん中」にあるといっても、もはやそれだけで生き残ることはできず、カジノ構想で客を呼び込むという大胆な発想に至った。このタイミングで一気に舵を切ったのは、ニューヨーク州のカジノ規制の緩和がニューヨーク市に及ぶことになったからだ。

 ニューヨーク州は2013年に州憲法を改正し、それまで禁止していたラスベガスにあるようなフル規格のカジノの建設を認めた。州内7カ所に建設することとし、そのうちの4つの建設枠は州北部に振り当てられ、すぐに営業が開始された。

 ニューヨーク州は南端に米国最大の都市のニューヨーク市があり、極端に南部に人口が集中している。これに対し「アップステート」と呼ばれる中部や北部には、大都市といえるほどの都市はない。州政府は州内の経済格差を少しでも是正するため、ニューヨーク市とその周辺の南部に認めた3つのカジノ建設枠については10年間、計画推進を見合わせていた。

 その南部のフル規格カジノ建設が、いよいよ今年、動き出す。カジノ施設の建設を管理する州の委員会は年初から、事業参入希望会社の申請の受付を始めた。

 ニューヨーク市は世界の一大ビジネス街である一方で、世界の一大観光地でもある。「世界中が不況にあえいでいてもマンハッタンだけは栄えている」といわれるほどの「金満都市」だ。カジノ業界はニューヨーク市での本格カジノ建設を、「よだれを流しながら」じっと待っていた。サックス・フィフス・アベニューも、このチャンスを逃すまいと参入に手を挙げた。

 サックス・フィフス・アベニュー以外に6カ所で建設構想が持ち上がっている。ニューヨーク市の象徴であるタイムズスクエアでの計画は、オフィスやホテルだけでなく「ライオン・キング」を上演するブロードウェイの劇場などを併設する。マンハッタンの東側、イースト川沿いの計画地は国連本部のすぐ脇にある。クイーンズ地区での計画はプロ野球のニューヨーク・メッツが本拠地とするシティ・フィールド球場に隣接させ、近隣のチャイナタウンからも客流入を狙う。

 ニューヨーク市とその周辺には、現在、競馬場を併設した限定的なカジノ施設が2カ所ある。こちらもフル規格カジノへの参入を希望し、現時点では9つの事業体が3つの建設枠を競う構図だ。

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サックス・フィフス・アベニューの隣にはセント・パトリック大聖堂がある(2023年1月撮影)

 大方の計画はビル建設を伴う大規模開発で、サックス・フィフス・アベニューの計画は事業規模としては「おしとやか」な構想だ。それでも「場所柄、ふさわしくない」と地元事業者や政治家らから反対の声が上がる。サックス・フィフス・アベニューの隣には、ニューヨーク市を代表するカトリック教会のセント・パトリック大聖堂がある。宗教的倫理観によるカジノ構想への反発もある。

 州の審査は、今年末までかかるといわれている。カジノ構想は、5番街のこの先の姿を占うことになるかもしれない。

言問通(フリージャーナリスト)

フリージャーナリスト。大手新聞社を経て独立。長年の米国駐在経験を活かして、米国や中南米を中心に国内外の政治、経済、社会ネタを幅広く執筆

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最終更新:2023/02/01 12:00
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