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日刊サイゾー トップ > 連載・コラム  > SOUL'd OUTという“異端”のグループ
あのアーティストの知られざる魅力を探る TOMCの<ALT View>#23

SOUL’d OUTはなぜ異端か サザン、ジャム&ルイス、アウトキャストが融合する“過剰さ”

 ビート&アンビエント・プロデューサー/プレイリスターのTOMCさんが音楽家ならではの観点から、アーティストの知られざる魅力を読み解き、名作を深堀りしていく本連載〈ALT View〉。今回は、2000年代に「ウェカピポ」「To All Tha Dreamers」などのヒットを飛ばし、2014年の解散後もいまなお愛される異端のヒップホップ・グループ「SOUL’d OUT」について、なぜ彼らが特異な存在だったか解説していただきます。

 

SOUL'd OUTはなぜ異端か サザン、ジャム&ルイス、アウトキャストが融合する“過剰さ”の画像1
SOUL’d OUT

 みなさんはSOUL’d OUTについてどのようなイメージをお持ちだろうか。Diggy-MO’の独特の声質による超高速ラップや「ア アラララァ ア アァ!」などに代表されるユニークなフレーズ、そしてキャッチーなメロディのサビが織りなす、ヒップホップとJ-POPの境界線上に立った音楽――こうした印象を持っている方は多いかもしれない。だが、彼らの特異な魅力を表すには、まだ言葉が足りない気もする。

 ヒップホップが日本国内に根付きつつあった2000年代半ば、驚異的なラップスキルの2MCを擁する彼らは、そもそもなぜあの音楽性を選んだのか。特に、あの時代にディスコ~ダンスクラシックやシンセブギー色が強いトラックメイキングを貫いたShinnosukeを核とするサウンド面まで含めた言及となると、現状では大幅に不足しているように思えてならない。

 R-指定がヒップホップに目覚めたきっかけとして「1000000 MONSTERS ATTACK」(‘04)を挙げたことが話題を呼んだり、昨年末には『NHKのど自慢』で歌われたことをきっかけに「ウェカピポ」(‘03)が再注目を浴びるなど、2014年の解散後もネットを中心に定期的に話題を呼ぶ彼らの楽曲。本稿は、「日本のヒップホップ」「J-POP」いずれにおいても異端で孤高の存在であるSOUL’d OUTがなぜ今なお多くの人を惹きつけるのか、その謎を解き明かす試みだ。

SOUL’d OUTの“異端”性の原点――サザンオールスターズとの関係

 まず、SOUL’d OUTが「日本のヒップホップ」のファンからしばしば異端と見なされ、時にいわれなき批判に晒されてきた要因について考えたい。服装・髪型などファッション面でヒップホップ色を強く打ち出しながらも、「反社会的な振る舞いやダーティなスラングを用いない、ポジティヴなリリック」「非常にキャッチーなメロディのフック」を持つ彼らの楽曲は、確かにメインストリームのJ-POPを射程に捉えているようにも映る。だがこうした特色は「サザンオールスターズのように多くの人に愛されるグループ」を目指したというDiggy-MO’の言葉通りでもある。

 SOUL’d OUTの音楽性は決して“セルアウト”を行った結果によるものではなく、そもそも最初の立ち位置およびゴール設定が従来の「日本のヒップホップ」の範疇から完全に外れていたのだ。そのことは、メジャーデビュー前の唯一のリリース『DEMO TRACKS』(‘02)が極めてR&B色が強い内容だったことからも明らかだろう。それでいて「多くの人に愛される」ために個性を曲げることなく、むしろその個性を前面に押し出した上で成功を納めたことは、ソウル~ラテン色の強い「勝手にシンドバッド」で“ロックバンド”として鮮烈にデビューしたサザンともどこか通ずるものがあるように思える。


【※2曲ともオリジナル版は『DEMO TRACKS』に収録。ラップはメジャー流通版と別テイクだが、トラックおよびアレンジはほぼ同一である】

ジャム&ルイスを敬愛するShinnosukeの「非ヒップホップ的」トラック

 SOUL’d OUTを異端たらしめる大きな要因に、Shinnosukeが手がけたトラックの存在がある。インタビューでも「HIP HOP的なトラックを作らないことを意識している」「ティンバランド以降のバウンス系をわざと避けている」「ソウル・ミュージックやファンクが好き」( 「WOOFIN’」2003年5月号、シンコーミュージック)と明言している通り、彼の手がけるサウンドは80年代のディスコ~ダンスクラシックやシンセブギーの要素が強く、90年代中盤~2000年代のヒップホップにおけるビートの潮流とは良い意味でかけ離れている。そんな彼がリスペクトするのが、ジャネット・ジャクソンやアレキサンダー・オニールをはじめ、数多くのシンガーをスターへと導いた、米国を代表するR&Bプロデューサー・ユニット、ジャム&ルイスだ。

 ジャム&ルイスのスタイリッシュでメロウなコード感・音色に強いファンクネスを織り交ぜる構成は、間違いなくSOUL’d OUTの音楽性にも通じるものがあるだろう。また、SOUL’d OUTのセカンドシングル「Flyte Tyme」(‘03)のタイトルは、ジャム&ルイスが立ち上げたレーベルの名前(および彼らが参加していたバンド=ザ・タイムの前身となるグループの名前)から名付けられており、この点からも深い敬愛ぶりが窺える。

 この路線では、シンセブギー的なサウンドに環境音を織り交ぜるセンスが光るシングル「イルカ」(‘05)も忘れてはいけない名曲だ。そして、この「イルカ」のB面で、日本でもダンスクラシックとしてお馴染みのカール・カールトンの81年のヒット「She’s A Bad Mama Jama(She’s Built, She’s Stacked)」をカバーしている点からも、ShinnosukeおよびSOUL’d OUTの80s R&B~ファンク志向は明確だろう。

 Shinnosukeは完パケに近い状態のトラックをMC2人に持ち込み、楽曲を完成させていくことが多かったという。メロディアスな彼のトラックはラップが乗る以前の段階で強い個性を持っているが、MC陣が良い意味で寄り添うことなく、各々の個性全開でトラックにぶつかっていったからこそ、SOUL’d OUTの音楽は唯一無二の過剰さを備え、異端の存在となっていったように思える。次章では、2MCそれぞれの特色について触れていこう。(1/2 P2はこちら

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