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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.728

竹中直人監督、斎藤工主演『零落』はヒロイン・趣里の美しさに魅了される

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浅野いにおの原作漫画を、竹中直人監督が映画化した

 女優を美しく撮ることに関しては、トップクラスと言っていいだろう。竹中直人監督が撮る映画は、監督デビュー作となった『無能の人』(91)以降、どの作品もヒロインの美しさが際立っている。斎藤工を主演に迎えた竹中直人監督作『零落』は、趣里の美しさに誰もが魅了されるに違いない。

 人気漫画家・浅野いにおの同名コミック(小学館)が原作。長期連載を終えた漫画家・深澤薫(斎藤工)が主人公だ。連載漫画はベストセラーになったものの、新作のアイデアが思い浮かばない。すでに人気が下降気味だった深澤に対し、編集部の対応は冷たかった。漫画誌の編集者である妻・のぞみ(MEGUMI)も売れっ子漫画家との打ち合わせに追われ、すれ違いの夫婦生活が続いている。

 出版社は売れる作品、人気作家しか求めていない。SNSを覗くと、深澤のことを酷評する声ばかりが目に入ってくる。読者にこびるような作品ばかりを描いていていいのか? 不満や焦りが募る一方の深澤は、夜の街に癒しを求める。

 そんな深澤の前に現れたのが、猫のような目をしたミステリアスな風俗嬢・ちふゆ(趣里)だった。漫画はあまり好きじゃないというちふゆとのやりとりは、深澤にとって唯一の安らぎの時間となる。お客と風俗嬢という割り切った関係のはずだった深澤とちふゆだったが、肌を何度も重ね合ううちに、次第に心の距離を縮めていく。

 漫画家・深澤の表現者としての苦悩が描かれる一方、ちふゆ役の趣里、離婚の危機にある妻・のぞみ役のMEGUMI、深澤が漫画家デビューした頃に交際していた恋人役の玉城ティナら、多彩な女優陣がみな魅力的なキャラクターとなっている。深澤の悩みが深ければ深いほど、女たちは美しく感じられる。深澤が抱える心の迷宮に、スクリーンを観ている我々も引き込まれてしまう作品だ。

浅野いにおのダークな匂いに惹かれた

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竹中監督いわく「価値観を共有できる」斎藤工が主人公を演じる

 竹中監督による漫画原作の映画化は、つげ義春原作の『無能の人』、山田孝之&齊藤工との共同監督作となった大橋裕之原作の『ゾッキ』(21)に続く3作目。今回、竹中監督は俳優としては出演せず、監督業のみに専念している。監督作が10本となった竹中監督に、原作との出会い、映画監督としてのこだわりを尋ねた。

竹中「たまたま立ち寄った本屋さんで『零落』とというタイトルが目に飛び込んできたんです。そして手に取った瞬間、夜の歩道橋に“零落”というタイトルが縦書きで映し出されるイメージが浮かびました。すべての監督作はみんなそうです。いつも直感で動くんです」

 どうしても『零落』を映画化したいと思い立った竹中監督は、出版社を通さずに浅野いにお本人に映画化したいと伝えたという。原作のどこに惹かれたのだろうか。

竹中「この『零落』という作品のすべてに惹かれました。作品の持つ空気感がたまらなかった。急いで映画にしないと!という思いもあり、映画化に向けてまずは自分で撮影稿を書いて、ご本人に映画化の許可をお願いしました。かなりしつこく浅野さんに売り込んだので、ご迷惑をお掛けしました。とにかく映画にしたいと必死だったんです。映画『零落』は浅野いにおさんへ向けた僕のラブレターです」

 浅野いにおの漫画は、『ソラニン』(10)と『うみべの女の子』(21)が映画化されている他、『おやすみプンプン』や『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』といったシュールな作品も知られている。

竹中「どの作品もどこか浅野さんのダークな匂いを感じます。いにおさんの持つ、闇の部分に惹かれました」

 ベネチア映画祭で国際批評家連盟賞を受賞した竹中監督&主演作『無能の人』も、漫画が描けなくなってしまった漫画家の物語だった。屈折した人物像に、竹中監督は魅力を感じているようだ。

竹中「映画『零落』は『無能の人』に通じるものがあるのかな……。『無能の人』の主人公は、どこかつげ義春さんのようでした。才能があるのに漫画が描けなくなった漫画家の物語です。しかし、自分の中でそういった括りにしてしまうのは想像が狭まってしまうので、決め込んだりはしませんが、自分で自分を追い詰めていくところは、『零落』と通じますね。人生、前向きに生きよう的なものは、どこか照れてしまうんです。闇を抱えている主人公に惹かれてしまいますね。ハッピーエンドよりバッドエンドのほうが好きだったりします(笑)。『零落』はある意味、現代版『無能の人』のような感じかも知れませんね。浅野さんも、つげさんの作品は好きだと思います」

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