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経口中絶薬、審議見送り…「時代遅れ」の先にある“金の問題”

アフターピルのOCT化、賛成は約9割も…全く進まない議論

 長らくアフターピルの問題に取り組んできた山本氏は、「正確な背景はわからない」と前置きした上で、「認可に動くことができた要因として、国内の臨床試験結果や、製薬会社による海外での十分な実績、WHOのガイドライン、女性の権利をめぐる世界の情勢などがあるのでは」と分析している。

 なお一度、俎上に載ったアフターピルのOCT化は、今でも牛歩のように遅々として進んでいない。使用の主体である女性たちの多くが、賛成の声を挙げているのにもかかわらずだ。ちなみにデジタル診療プラットフォーム「クリニックフォア」がユーザー女性920人を対象に実施した「アフターピル(緊急避妊薬)に関する実態調査」によれば、OTC化の賛成は約9割に達している。

 海外と比較して圧倒的にアフターピルの議論が進まなかった理由のひとつには、間違いなく“お金の問題”があると、山本氏も指摘している。診察や処方なしにピルが買えるようになれば、窓口としての病院の収入源は減るからだ。また少子化が進むなか、日本の産婦人科医にとって人工中絶の費用も貴重な収入源になっている。日本の人工中絶数は年間で16~17万件。その費用は患者の自費負担で、15~30万円が相場だ。ざっと計算してみても、240~510億円ほどの産業規模となる。

 ここからは推測に過ぎないが、“外圧”によりアフターピルのOCT化の流れが避けられない以上、処方箋が必要とされる可能性が高く、相対的に高価な経口中絶薬の認可を同時並行した方が、医療業界の利権を守れるという判断があったのかもしれない。

 中絶については副作用の問題以外にも、宗教的・文化的な価値観が各国の状況に反映されるという反論もありそうなものだが、「アフターピルはUAEやタイ、ミャンマーでも日本より簡単かつ安価に購入できる」(山本氏)という。

 日本においては文化・社会的な観念という議論を盾に医療業界の権益が守られ、女性が健康に暮らすための権利や選択肢がないがしろにされてきたという事実はもはや疑いようがない。

 コロナ禍が一旦、終息しようとしている昨今。一部の医療関係者が命懸けで奮闘する中、病床確保料を得ている病院が“医療崩壊”という名目で患者の受け入れを拒否していたという事実も、徐々に明るみ出ている。それと同様の経営を優先する構図が、アフターピルや経口中絶薬の議論からも透けて見えてこないだろうか。

 経口中絶薬の承認は入り口でしかない。価格設定や運用方法がアクセスしやすいものとなり、真に女性が自分の健康を守るための選択肢となることを願うばかりだ。

河 鐘基(ジャーナリスト)

リサーチャー&記者として、中国やアジア各国の大学教育・就職事情などをメディアで発信。中国有名大学と日本の大学間の新しい留学制度の設置などに業務として取り組む。「ロボティア」「BeautyTech.jp」「Forbes JAPAN」など、多数のメディアで執筆中。著書に「ドローンの衝撃 」(扶桑社新書) 「AI・ロボット開発、これが日本の勝利の法則」 (扶桑社新書)、共著に「ヤバいLINE 日本人が知らない不都合な真実」 (光文社新書)など。

Twitter:@Roboteer_Tokyo

はじょんぎ

最終更新:2023/03/30 11:00
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