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バフィー吉川の「For More Movie Please!」#15

『クリード 過去の逆襲』ボクシング映画を観にきた観客に日本アニメ愛は通用するのかーー?

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© 2023 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All rights reserved. CREED is a trademark of Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All rights reserved.

 シルヴェスター・スタローンの代表作「ロッキー」シリーズのサーガとして誕生した『クリード チャンプを継ぐ男』(2015)。そんな「クリード」シリーズも今作で3作目ーー『クリード 過去の逆襲』が現在公開中!!

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主人公アドニス・クリードを演じ、監督も務めるマイケル・B・ジョーダン。© 2023 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All rights reserved. CREED is a trademark of Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All rights reserved.

 しかも今作では、主演のマイケル・B・ジョーダンが監督も務めている。マイケルにとって、今作が記念すべき監督デビュー作となった。

 今までは主人公アドニス・クリードが青年になったあとの物語が主に描かれていたこともあって、少年時代はざっくりとしか語られてこなかった。しかし今作では、そんな少年時代のアドニスが経験したトラウマが深堀りされることになる。

 またマイケルは、今作のプロモーションで来日した際にも東京を舞台にしたボクシング漫画『はじめの一歩』の聖地巡礼を行ったほど、日本の漫画やアニメを愛しているのだ。今作中にも『ガンダム』や『NARUTO』のポスターが映り込んでいるほか、試合の演出としても『はじめの一歩』や『NARUTO』が参考にされているなど、その愛が散りばめられている。ただ、『クリード』を観に行ったファンがそれを観たいのかというと、それはまた別の話のようにも感じられてしまうが。

 良くも悪くもそういった自由が利くのも、マイケルが自ら監督を務めたことによる特権であるといえる。一方で、今作のストーリーの“現役チャンピオンが無名の男と対戦する”という流れ自体が『ロッキー』の1作目と同じことを繰り返しているに過ぎず、すでにマンネリ感が漂ってしまっているのは難点だ。

 ロッキー・サーガとしての立ち位置から「クリード」シリーズが独立したことにより、今作にはロッキーが登場しない。つまり、ロッキーからの卒業を意味しているのだが、ストーリーがロッキーに寄り添ってしまっていては意味がないようにも思える……。

【ストーリー】
家族同然だった幼馴染が宿敵へ!ある日、クリードの前にムショ上がりの幼馴染デイムが現れる。実は、クリードには家族同然の幼馴染を宿敵に変える誰にも言えない過ちがあったのだ。〈栄光を掴んだ最強チャンプ〉VS 〈全てを失ったムショ上がりの幼馴染〉──血と涙の殴り合いが始まる──。

主人公の宿敵デイムが何を考えているのか、全然わからない!!

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デイムを演じたジョナサン・メジャース。© 2023 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All rights reserved. CREED is a trademark of Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All rights reserved.

 ストーリー展開には多少難があるものの、今作で一番目を惹くのが、ジョナサン・メジャース演じるデイムというキャラクターの中にある闇だ。というか、メジャースがいなかったら今作はもはや成り立っていないようにも感じられる。

 有名になったら突然連絡してくる、遠い親戚のように登場するデイムだが、アドニスを見るその眼差しからは、怒りなのか、悲しみなのか、それとも嫉妬なのか……。といったように、今回メジャースはとにかく何を考えているのかわからない演技をしているのだ。その表情の裏にある真意がいまいち掴みづらく、常に緊張感が漂っている。

 デイムは、いつ爆発するかわからない爆弾のようであり、主人公のアドニスもそれを感じていて、どう話して、どう接するべきなのかがわからないでいるといった表情を浮かべている……ので、リングの外でも中でもボクシングがエンドレスで続いているようだ。

 メジャースが演じる得体のしれない恐ろしさという点では、ドラマシリーズの『ロキ』や『アントマン&ワスプ:クアントマニア』(23)で演じたヴィラン、カーンとも通じる部分がある。今回のキャスティングの理由も、実はそこにあるのかもしれない。

 そういったキャスティングに恵まれたことによって、ざっくりとした人間ドラマ部分が重圧になっているように錯覚させてはいるが、うまくいってない部分もいくつかある。

 監督のマイケル・B・ジョーダンいわく、今作のテーマは「許し」とのことだ。それは確かに理解できる。

 アドニスとデイムは同じ環境で育ちながらも、運やタイミングによってまったく別の人生を送っている。どちらが逆の立場になってもおかしくない対照的な2人ということから、全体的なテーマとしては、もうひとりの自分やサブタイトルにもなっている過去との対決だ。ただ、そこに「許し」が加わってくることで濃厚な人間ドラマが展開されるのではなく、回収しきれず中途半端なものになっているのが、今作を観た後に残るモヤモヤ感だろう。

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 いろいろと粗削りな部分はあるものの、マイケル・B・ジョーダンの監督業も決して悪くはない。スタローンも「ロッキー」シリーズのいくつかを自ら監督しているが、決して成功といえるものばかりではなかった。

「クリード」シリーズがその部分まで受け継いでしまわないように、次回作があるとすれば、別の監督に頼むべきだろうと思う。

 それよりも、日本の漫画やアニメが好きというのであれば、漫画原作の映画を撮ってもらうのが一番いいのかもしれない……。

 

『クリード 過去の逆襲』 
5月26日(金)全国ロードショー

■監督:マイケル・B・ジョーダン
■出演︓マイケル・B・ジョーダン、テッサ・トンプソン、ジョナサン・メジャース、
ウッド・ハリス、フロリアン・ムンテアヌ、ミラ・ケント、フィリシア・ラシャド 他
■製作・原案:ライアン・クーグラー
■配給:ワーナー・ブラザース映画
■公式サイト:creedmovie.jp

© 2023 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All rights reserved.
CREED is a trademark of Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All rights reserved.

バフィー吉川(映画ライター・インド映画研究家)

毎週10本以上の新作映画を鑑賞する映画評論家・映画ライター。映画サイト「Buffys Movie & Money!」を運営するほか、ウェブメディアで映画コラム執筆中。NHK『ABUソングフェスティバル』選曲・VTR監修。著書に『発掘!未公開映画研究所』(つむぎ書房/2021年)。

Twitter:@MovieBuffys

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ばふぃーよしかわ

最終更新:2023/06/06 06:00
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