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“ダサカッコイイ”がぴったりの芸人「なすなかにし」の凄さを元芸人が分析

ダサカッコイイがぴったりの芸人「なすなかにし」の凄さを元芸人が分析の画像1
松竹芸能公式サイト」より

 次から次へと新しい芸人が登場し、今までにないほど群雄割拠の時代と化しているお笑い業界。流行り廃りが早く、今までならそのままスターダムにのし上がるような状況であっても、上手くその流れに乗れないと一瞬でそのチャンスを失い、廃りという濁流に飲み込まれてしまう。

 一発屋にすらなることが難しい現在のお笑い界において、人気芸人への階段を着実に登っている芸人たちが、「2023年上半期ブレイク芸人」にて発表されたのだ。この企画は「ORICON」で恒例となっており、視聴者からのアンケートをもとにランキングを作成しているので、業界関係者が推しているというようなものではなく、純粋に視聴者の目に触れることが多く、さらに好印象な芸人のランキングと言えるだろう。

 今年の上半期ブレイクした芸人の第1位は元自衛官という経歴を持ち、その独特なキャラクターで一躍人気者となった「やす子」さんだ。「ぐるぐるナインティナイン」(日本テレビ系)の「おもしろ荘2021」で知名度を上げ、自衛官ならではの「ほふく前進」や「はいー」というオチ台詞を武器に、その可愛らしいキャラクターで老若男女問わず愛される存在となった。今や見ない日はないと思えるほど活躍しているので、このランキングは頷ける。

 そして2位は「なすなかにし」、3位は「見取り図」、4位「ウエストランド」、5位「コットン」と続くのだが、注目すべきは2位の「なすなかにし」さんだ。

 正直、3位以下の皆さんは賞レースでファイナリストになったり優勝したりという優秀な成績を収め、それを起爆剤として様々なバラエティ番組に進出し認知度を上げ、ブレイク芸人に選ばれたという流れはわかるのだが、2位のなすなかにしさんはその王道パターンに当てはまってはいない。

 ではなぜ2位という順位を獲得できたのか。今回はその辺りを元芸人目線で分析していく。今回のランキングで「なすなかにし」さんをブレイク芸人に選んだ人の理由で、次のような声が寄せられている。「ロケ、番組ゲストなどいつでも笑わせてくれる」「嫌味がなく安心して見てられる」「安定して笑いが取れる」。

 この声を分析すると「安心感」や「安定感」が評価のポイントとして取り上げられているので、視聴者が「なすなかにし」さんの武器と捉えている部分は「笑わせるアベレージの高さ」ということになる。基本的に芸人はロケが得意、ガヤが得意、ネタが得意など得手不得手があるものなのだが、「なすなかにし」さんはどのポジションを振り分けられたとしても不得手を感じさせないのだ。

 こう聞くと全てのジャンルをこなすオールラウンダーと聞こえるかもしれないが決してそうではない。ではなぜどのジャンルにも対応できるのか。それは自分たちのフィールドに持っていくのが非常に上手いからだ。「なすなかにし」の面白かったシーンを思い出し、頭の中に思い浮かべて欲しい。たぶん頭の中に浮かんだ映像は、ロケだろうが、ガヤだろうが、トークだろうが、ほぼネタと同じようなボケのスタイルなはずだ。

 ということは「なすなかにし」という芸人はある一定の笑わせ方を得意としており、その笑わせ方は老若男女問わず笑わせることが出来、さらにどんな状況であっても自分たちが一番得意とするボケの方向へ引きずり込むことが出来るということなのだ。

 僕が芸人をやっていた十数年前、「なすなかにし」さんと共演したこともあるが、その当時は今のようなタイプの芸人では無かった記憶がある。もちろん大阪特有の強烈なベタさや、東京の芸人には出来ないテンポ感の漫才を披露しており、いかにも大阪から来た正統派芸人というイメージだった。

 ということは若手時代は今のようにベタをベタでコーティングしたような芸人を目指していたわけではなく、売れっ子で人気者の器用な芸人になることを目指したことだろう。「なすなかにし」さんは今年で芸歴22年。20年近くいろいろな方法を試しまくり、そして試行錯誤した結果、自分たちが合わせるのではなく、どんな状況であろうとその状況自体を自分たちに合わせるという結論に達したのではないだろうか。

 「なすなかにし」が芸人として生きていく為に、自分たちにしか出来ない”隙間”を見つけ、そしてその芸風を貫き通し今の「なすなかにし」が出来上がった。これが「なすなかにし」さんの凄さのひとつだ。

 そしてもうひとつの凄さは、その芸風の質だ。「なすなか」さんの芸風はベタ中のベタを様々な間や見せ方を使って披露するというもので、今まで誰もやったことがない斬新な芸ではないのだ。先人たちが散々やってきて、今の芸人たちが好んでやらないような、ある意味古めかしいお笑いのスタイルを、あえてやることにより、ベタではない、ベタベタなネタになったというわけだ。

 これは他の芸人にとっては盲点であったろう。若手芸人がやりたくないベタなことを、さらにベタにし、ボケをベッタベタにすることによって視聴者には新鮮なボケに映り、それがブレイクのきっかけになった。当時こんなベタなボケをする芸人は珍しく、ベタと言えば「なすなかにし」というイメージをつけたお陰で、言い方は悪いがダサイ芸人の代表として他の芸人がネタの中で名前を使うことにより視聴者に対して知名度を広げる結果となった。ちなみにダサイというのは悪い意味ではなく、それもキャラクターのひとつであり、ある程度芸歴がある芸人はベタな芸が好きなので、必然的に「なすなかにし」さんも愛されているのだ。なので愛すべきダサイ芸人なのである。

 そしてこれは狙っていたわけではないと思うが、ベタなボケというのは、尖りがなく、どちらかというと丸みを帯びたボケなので、誰のことも傷つけることがない。つまり「傷つけない笑い」が推奨されている今の時代にフィットしており、そんな優しい笑いも、「なすなかにし」さんが好かれている理由の一つだろう。

 尖ることをカッコイイと思う芸人が多い中、20年かけて角を削り、芸風を丸くした「なすなかにし」が、今の時代にブレイクするのは当然だろう。

 “ダサカッコイイ”という言葉がぴったりの芸人「なすなかにし」。一時期「いまぶーむ」という名前に改名したが、まさに今ブームかもしれない。

檜山 豊(元お笑いコンビ・ホームチーム)

1996年お笑いコンビ「ホーム・チーム」を結成。NHK『爆笑オンエアバトル』には、ゴールドバトラーに認定された。 また、役者として『人にやさしく』(フジテレビ系)や映画『雨あがる』などに出演。2010年にコンビを解散しその後、 演劇集団「チームギンクラ」を結成。現在は舞台の脚本や番組の企画などのほか、お笑い芸人のネタ見せなども行っている。 また、企業向けセミナーで講師なども務めている。

Twitter:@@hiyama_yutaka

【劇団チーム・ギンクラ】

ひやまゆたか

最終更新:2023/07/26 11:00
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