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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.752

インターン制度を悪用した企業犯罪を映画化 ペ・ドゥナが慟哭する『あしたの少女』

どんな手段を使っても、お金儲けさえできればいい

インターン制度を悪用した企業犯罪を映画化 ペ・ドゥナが慟哭する『あしたの少女』の画像3
ソヒを演じたのはオーディションで選ばれた新進女優のキム・シウン

 コールセンターで働き始めたソヒは、顧客たちからの苦情に電話対応し、しかも解約を踏み止まらせなくてはならない。さらに、他のオペレーターたちと激しく成績を競わせられる。高校生でありながら、ソヒは現実社会の暗部を否応なく見せつけられる。

ジュリ「前作『私の少女』のペ・ドゥナさんとキム・セロンさんも孤独を抱える女性役でしたが、今回のキム・シウンさんも似たような状況です。コールセンターでは多くのスタッフが一緒に働いていましたが、パーテーションで仕切られた空間にいるソヒは群れの中で孤立したように感じていたんです。死ぬことでしか孤独から逃れられないと、彼女は悩んだのでしょう。社会に絶望し、生きる気力を失ってしまった18歳の少女が現実にいたことに、とても胸が痛みました」

 前半パートは記事資料に基づき、実際の事件がかなり忠実に再現されている。

ジュリ「コールセンターは多彩な仕事に対応し、業務形態もさまざまで、いろんな職場があると思います。でも、私が資料を読んで知った職場は“よくない仕事”をオペレーターたちに命じていました。解約したいと電話してきた顧客をたらい回しにして、諦めさせていたんです。実習生として働き始めたソヒはそうした“よくない仕事”を強要され、拒むことができませんでした。映画の中では『28回も電話をしている』という苦情が電話口で語られますが、私が読んだ資料では『72回も電話させられた』というケースがありました。企業側が組織的に“よくない仕事”をさせていたんです。これは資本主義システムの負の一面かもしれません。どんな手段を使っても、お金儲けさえできればいいんだと。そして、負のシステムの中にソヒたちを縛り付けていたんです」

誓約書にサインすれば手当を与えるという狡猾さ

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高校では愛玩動物の飼育を専攻していたソヒ。明るい女の子だった

 劇中、上司となるセンター長は実習生であるソヒを気遣うが、ソヒよりも先に彼のほうが自死を遂げてしまう。コールセンターで働くスタッフは、センター長の葬儀に参列することが許されず、また自殺騒ぎを口外しないという誓約書へのサインを求められる。同調圧力が働き、スタッフは次々とサインしていく。

ジュリ「そうしたエピソードも、実際に起きた事件をベースにしています。問題があった企業はトラブルが起きるたびに、誓約書にサインすれば特別手当を支給することをちらつかせていたんです。すべて、お金で解決しようとしていました。実際の事件とは異なる部分もあります。センター長とソヒは同時期に働いていたことにしましたが、実際のセンター長はソヒのモデルになったホン・スヨンさんが働き始める前に亡くなっていました。また、センター長の遺族は企業側からの示談金を拒み、労働災害であると訴え、最後まで闘い続けました。でも、同じような事件で、生活苦から示談金を受け取った遺族がいたことも事実なんです。同時期に起きていた同じような事件も参考にして映画化しています」

 韓国の職業高校では、3年生になると現場実習として実社会で働くことが教科となっており、生徒の専攻分野や適性と関係ない職場で働かされているケースも少なくないようだ。また、実習生は労働基準法などの対象にはなっておらず、企業側はそうした法の死角を悪用していたことになる。

ジュリ「韓国社会で働く労働者たちは、明確な序列の中に組み込まれています。いちばん上は大企業の正社員です。続いて、非正規社員、契約社員、派遣社員といったヒエラルキーになっているんです。さらにその下になるのが、実習生です。ソヒは社会の最下層で苦しんでいたわけです」

 社会の最下層の重圧に押し潰され、ソヒは大好きだったダンスさえ踊れなくなってしまう。ソヒの同級生たちも、それぞれ実習先でもがき苦しみ、ソヒの異変に気づくことができなかった。孤独に亡くなったソヒのために、ぺ・ドゥナ演じる刑事のユジンが不条理な社会に怒り、涙を流すことになる。

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